死の勝利
<くらやみ男爵>
さあ、もう遊びは終わりだ・・・
これからおまえの処刑を行う。
おまえを地獄へと送信するための処刑をな。
罪状はなんだと?
ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーー・・・
自分の胸に聞いてみろ。
おまえは世界を呪っている。
世界を呪うということは自分を呪うことも同じなのだ。
「ひとを呪わば穴ふたつ」・・・
それこそがおまえの大罪だよ!
ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーーー・・・
さあ自分の胸に聞いてみろ。
自分の心の叫びを。
生まれてこなければよかった。
早く死にたい。
うむ?声が小さすぎて聞こえんな。
ところでわたしが持っているこの大鎌はなんだと思う?
なに?
死神の持っている大鎌?
・・・ふふ・・・ふぉーーーーーーーふぉふぉふぉふぉふぉーーーー・・・
死神などという生やさしい存在だと思っていたのか?
このわたしを?
甘すぎるわ!!
おまえはわたしに殺されると思っているだろう?
しかし違うな。
大きく違う。
わたしはおまえを「生かす」のだ。
なに?意味がわからん?
ふぉ!
じきにわかる・・・
生まれてこなければよかった。
早く死にたい。
ようやく蚊の鳴くような声が聞こえてきたな。
その調子だ。
さてこの大鎌は「エレザールの鎌」という。
おまえを地獄に送信するための極めて特殊な鎌だ。
さて「生かす」とはどういうことか教えてやろう。
おまえは「死にたい」と思っている。
そこでおまえを殺してしまえばおまえに対する罰にはならん。
だからおまえを逆に「生かす」のだ。
この「エレザールの鎌」で首を刎ねられた者の魂は次元を超える。
行く先は異空間だ。
異空間でおまえの魂は永遠にさまよい続ける。
この魔術は「葬儀」(しなどおくり)と呼ばれている。
この魔術を駆使できる者はこの全宇宙に3人しかいないそうじゃ。
・・・さあ、もっと大きな声で泣き叫べ!!
生まれてこなければ良かった。
早く死にたい。
そうそう・・・その調子だ・・・
さて「葬儀」に処せられた者は永遠に異空間を彷徨う。
おまえにその本当の恐ろしさがわかるか?・・・
仏教でいう「無間地獄」。
そこでは無量大数の年月、亡者は責め続けられるという。
しかしな。それとて終わりはあるのだ。
天上界の天人が天人五衰で死に絶えてまた六道の辻に立たされるように。
しかしこれからおまえが受ける処刑はそんな生やさしいものではないぞ。
ついこの間、路上で野垂れ死んだデンマークの神学者崩れが言っておったな。
「その焔は消えることなく燃え続け、その蝿は死ぬことなく死に続ける。」
おまえにわかるか?
この「死を死につづける」という表現の本当の恐ろしさが・・・
生まれてこなければ良かった。
早く死にたい。
ふぉーーーーーーふぉふぉふぉーーーーー・・・・
ようやく「叫び」に近くなってきたな。
さておまえは「永遠」など存在しないと思っているだろう?
しかし実際は違う。
宇宙の闇を超えることができるわたしが言っているのだから間違いない。
「永遠は存在する」
空間がねじれていることはおまえも知っているな?
同様に時間もまたねじれて円環状になっているのだ。
すなわち終わることなく円環をめぐり続ける時間。
それが「永遠」だ。
生まれてこなければよかった。
早く死にたい。
さてそろそろ処刑を開始するか。
おまえの声にも力がこもってきたぞ。
ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーー・・・
「葬儀」の術は処刑者と被処刑者の心根が一致しないと成就しない。
それほど難しい魔術なのだ。
しかしおまえの憎悪は今急激に高まっている。
このわたしがもっている憎悪に近づくほどにな。
おまえの憎悪とわたしの憎悪のレヴェルがぴったり一致した時。
その瞬間、わたしはこの大鎌でおまえの首を刎ねる。
「葬儀」の術がそのとき成就し、おまえの魂は異空間に放逐される。
生まれてこなければよかった。
早く死にたい。
永遠だ・・・永遠に苦しむのだ・・・
それが自分を呪ったおまえの運命だ・・・
あきらめろ・・・
あきらめろ・・・
あきらめろ・・・
生まれてこなければよかった!!
早く死にたい!!
さあいくぞ。
永遠の死を死に続けろ!!
<「葬儀」>
Ω
!!!!!
(その時地下室のドアがゆっくり開いた。
そしてあの凛として清らかな謎の声が地下室にひびきわたった。)
「お止めなさい。くらやみ男爵。」