Ψ心理試験Ψ

 

<くらやみ男爵>

まあそこに掛けろ。
タバコを吸うか?
それともワインがいいか?
ふぉ!ここにある独逸産のワインは不味くてかなわん。
やはり仏蘭西産のワインでなくてはな。 

(その時、あなたの目の前に突然テーブルとワイングラス、ワインボトルが現れる。)

<くらやみ男爵>

まあ一杯やれ。
む?なにを戸惑っておる?
ふぉふぉ・・・ふぉーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーーー・・・
わたしが意外と紳士的に振舞うので当惑しておるのじゃな。
しかし忘れるな。
本当に恐ろしいものは満身の笑みを浮かべておまえに近寄ってくることを。
「生体実験」はもう始まっているのだ。・・・

  

 

 

心理試験第一章<日常生活>

<くらやみ男爵>

ところでおまえは毎日が楽しいか?
楽しくない?
ふぉーーーーふぉふぉふぉふぉーーーー・・・
結構結構。
この長期不況の社会で楽しいというほうがどうかしてるがな。
先行きの見えない社会情勢。
雇用不安。・・・おまえとていつリストラされるかわからぬぞ。
老後の心配。
おまえが寝たきり老人になった時、介護してくれる者がおるとは限らぬぞ。
それこそ死んでから十年後、ミイラになって発見されたりしてな!
ふぉふぉふぉーーーーーふぉーーーーー・・・
なに?おまえにはまだ住宅ローンが残っているだと?
それは最悪だわい!
ふぉーーーーーふぉふぉふぉーーーーー!!! 

 

<第一章結論>
毎日が漠然とした不安で充たされ楽しくない。

  

 

心理試験第二章<学校生活>

<くらやみ男爵>

おまえが社会人だったらこの章はとばせ。
ひきこもりも同様だ。
生徒・学生のみここを読め。

さて・・・おまえは学校が楽しいか?
楽しくない?
ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーー・・・
結構結構・・・

ところでなぜ楽しくないのだ?
なに?勉強したくないとな!
わかるぞわかるぞ。
英文法の暗記・日本史の年号の暗記・関数が難しすぎる?
ふぉ!
要するにおまえは学校生活に意義を見出せない。
なぜこんな勉強をしなくてはならないのかわからないというのじゃな。

受験。
それが目標だろうて。
いい大学からいい会社、そしていい墓場というわけか!
いい墓場で骨になるのも意外と楽しいものかもしれぬぞ!

ふぉーふぉふぉふぉふぉーーーー・・・ 

 

<第二章結論>
学校なんて行きたくない。

 

 

心理試験第三章<仕事>

<くらやみ男爵>

おまえが生徒・学生・ひきこもりだったらこの章はとばせ。

さて、毎日毎日満員電車に揺られて会社に行く生活はどうだ?
なに?10年もやればなれてくるだと!?
ふぉーーーふぉふぉふぉふぉーーーー・・・
感心感心。

ところでおまえの仕事はなんだったかな?
なに?営業職!?
そいつは大変じゃわい!
顧客のご機嫌をとるのも簡単ではなかろう?
毎日、命が擦り減る思いじゃろうて・・・
しかし辞表を書くわけにはいかない。
当然だわな。
この就職難の時代、
転職は難しいぞ。
それこそ路頭に迷うじゃろうな。

なに!?
ホームレスもいいかも知れないじゃと!?
そこまで落ちる覚悟があれば立派なものじゃ。
おまえは大物だよ!
会社の社長よりホームレスになりたいとはな!

ふぉーーーふぉふぉふぉふぉふぉーーーー・・・ 

第三章結論<会社の犬として過労で死ぬぐらいならホームレスになって野垂れ死んだほうがましだ>

 

 

心理試験第四章<ひきこもり>

<くらやみ男爵>

さておまえが引きこもって何年になる?
なに!
10年!
そいつは長いな!!

ところでひきこもってなにをしているのだ?

ふむふむ。
プレステ、ビデオ、インターネット・・・
それも最近は飽きてきたじゃと!
ふぉ!!
結構結構。
もっと怠惰になるがいいぞ。
もっとだらしなく暮らすがいいぞ。

それで将来おまえはどうする気じゃ?
結婚もしていないから家族も子供もなし。
親とていつまでも元気とは限らんがな。

なに!?
ゆくゆくは自殺して終わるじゃと!!

気に入った。
そういうネガティブな姿勢、わたしは大好きじゃよ。
いつまでもひきこもっていろ・・・
それがなんの能力もないおまえの運命だ。 

 

第五章結論<いつまでもひきこもっていたい。最後は自殺でおわっても。> 

 

 

心理試験第六章<子供>

<くらやみ男爵>

子供がいない者はこの章は飛ばせ。

子供というものは大変なものじゃろうて?
幼少期は手間がかかる。
思春期は反抗する。
高校卒業後は大学ぐらいだしてやらんとな。
しかも莫大な学費を払ってな。

そこまでして苦労して育てる価値があるものかのう?
「子供」などというものは。

なに?
跡取が必要?
・・・本音を言え。
おまえは本当は子供なんか産むんじゃなかったんだと思っているんじゃろう?
子供が可哀想だ・・・
そうだ。それが本音だ。
おまえは沢田教一が撮ったベトナム戦争の写真を観たことがあるか?
そうだ。あの有名な「裸で逃げ惑う少女」じゃよ。
あれほど「子供」というものの悲惨さを写し取った写真はあるまい。
そしてあれは決して特殊な見本ではない。
すべての「子供」の象徴が正にあの写真なのだ。
人は親となった瞬間から大きな罪を背負う。
それはこの苦痛に充ちた世界にまたひとつ新しい命を作ってしまったことへの悔恨だ。
おまえは親であるかぎり罪傷感で苦しまねばならない。

「父親とは永遠に悲愴なるもの」
こんな短歌を作ったのは誰じゃったかの?

ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーーー・・・ 

  

<第六章結論>
子供なんて産まないほうがいいに決まっている。 

 

  

 

心理第七章<親>

<くらやみ男爵>

おまえにとって「親」とはなんだ?

なに?乗り越えるべき目標?
尊敬すべき人物?

ふぉーーーーーーーふぉふぉふぉふぉふぉーーーー・・・

さっきもいったろう・・・こんな地下室じゃ。
誰にも聞こえないから本音を言ってみろ・・・

おまえは親を呪っているんじゃろう?
おまえの思春期を思い出せ・・・
おまえは言わなかったか?
「生んでくれと頼んだ覚えはない」と・・・

そうだ。それがおまえの本音だ・・・
おまえは親を呪っている。
おまえがこの苦痛にみちた世界に産み落とされた元凶は「親」だ。

親さえいなければおまえは存在しなかった。
故に現在の苦痛を味わうこともなかったのだ。

憎め・・憎むがいい・・・
憎しみの焔がすべての存在を燃やし尽くすまで。
おまえを産み落とした憎むべき「親」を。
 

第七章結論<親が憎い。生まれたくなかったのに!>

 

 

 

心理試験第八章<ガン>

<くらやみ男爵>

おまえは「ガン病棟」のなかを覗いたことがあるか?

なに?ない?
ふぉ!!
ならば一度見に行ってみろ。

なにもみていない眼、半開きの口、弛緩しきった表情の顔・・・
死をまえにした人間ほど無様なものはあるまい。
奴らはもう考えることさえ止めている。
極度の苦痛から逃れるためにはなにも考えないのが一番いいからだ。
やがておまえもそうなる。

なに?健康には気を使っている?
無農薬野菜じゃと!!

ふぉーーーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーー・・・

おまえの遺伝子に組み込まれたガン発生遺伝子。
これを止めることは絶対にできない。
いくら食品添加物や環境ホルモンに気を使ってもな。

ガン。
悪性新生物。
人間の体内に突如出現し、その人間を死に至らしめる決して死なない細胞群。 

いまや人間の死因は脳卒中を抜いてガンが一位。
人間はやがてガンで滅ぶ。

ガンとはもしかしたら人間という種のあとを次ぐ新生物かもしれんて。
そうだ。ガンこそがおまえたち人間の本当の子供なのだ。
男も女も平等に身ごもることができる赤ん坊・・・
決して堕胎できない単性生殖生物。

おまえもそんな赤ん坊を身ごもる。
もう20〜30年ほどでな!

ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーーーー・・・・

 

第八章結論<どんなにあがいてもガンで死ぬ運命は逃れられない。>

 

 

 

心理試験第九章<老化>

<くらやみ男爵>

おまえは「まだ若い」と思っておろう?

ふぉーーーーーふぉふぉふぉーーーーーー・・・

それならそのちょっと突き出た腹はなにかな?
二十代の頃はそんな腹ではなかったはず。

そうだ。
おまえの身体ももうすでに確実に老化をはじめている。
いや厳密にいえば22歳を過ぎたときからもう老化は始まっているのだ。

老化とは死への道標。
近づき来る死・・・その兆候が老化なのだ。

やがておまえの歯は歯槽膿漏ですべて抜け落ちる。
やがておまえの髪も禿さらばえてゆく。
手足の肉は削げ、腹だけが餓鬼のように突き出てくる。

・・・糖尿病。
・・・動脈硬化。
・・・肝硬変。
・・・脳溢血。
・・・大動脈破裂。

ありとあらゆる病気がおまえをまっているぞ!
せいぜい楽しみに待つがいい。

ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーー・・・
 

第九章結論<老化はすでに始まっている。それは死への兆候。> 

 

 

 

第十章<神>

<くらやみ男爵>

おまえは「神」を信ずるか?

なに?信じない?
・・・結構!おおいに結構!!

「神は死んだ」などといった痴れ者が19世紀にいたな。
だがな、正確には「神は死んだ」のではない。
「神は人間に殺された」のだ。

紀元前20世紀からおまえたち人類の動向を観察しているわたしにはよくわかる。

かっては神が確かに生きていた時代もあった。
神の定めた戒律に従い人間どもが慎ましく生きていた時代もあった。

しかし現代はどうだ?
人間はやりたいほうだい、
なんでもありの世の中だ。
「人間は自由の刑に処せられている」・・・正にその通り。

そうだ。
おまえたち人間が神を殺したのだ。
もっとも残虐な手つきで神の首を切り落とした。

人間は神を呪っていたのだ。
あたかも子が親を呪うようにな。

神が殺された世は秩序を失い、どんどん荒れていくだろう。
やがて呪いの矛先はおまえたち人間同士で向き合うことになる。

そうだ。
殺し合いだよ。
大戦争だ。

やがて人間は滅ぶ。
人間同士の殺し合いによってな。 

 

第十一章結論<神は人間によって殺された。そして人間はやがて同族同士の殺し合いで滅亡する。> 

 

 

 

最終章<死>

<くらやみ男爵>

どうだ・・・楽しかったろう?
わたしの「生体実験」は。

まあリラックスしろ。
ほれ、ワインを飲め。
そうだ。
ゴクンと一気に飲むんだよ。

嫌な事はすべて忘れられる。
酒とはいいものじゃのう!
そのまま眠ってしまえばなおいいか!!
そのまま眠りから目覚めなければもっともっといいか!!!

ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーーー・・・

おまえは死を望んでいる。
それは今回の心理試験で明らかだ。

もっと・・・もっと死を望め・・・
出生を、存在を呪うがいい・・・

それこそが人間よ・・・おまえたちにふさわしい姿だ。
最も美しい姿じゃよ!!

ふぉーーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーー・・・

生は死に還る。
存在は虚無に還る。
光は闇に還る。

これこそが宇宙の絶対法則だ。

さあ・・・地獄が始まるぞ。

自分の心から聞こえてくる声を良く聞いてみろ。

それこそがおまえの真実の叫びなのだ・・・

ふぉーーーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーー・・・ 

 

最終章結論<すべては虚無へ還る。>