『鮎川信夫詩集』

 

  鮎川信夫著。第一詩集。初版1955年11月30日。荒地出版社発行。解説北村太郎。ハードカバー上製。カバ完本。

 詩人・鮎川信夫は1920年東京生。戦前は「新領土」に参加。昭和22年詩誌「荒地」創刊に参加。実質的に「荒地」のリーダー的存在として活躍する。その詩風は極めて難解である。しかしじっくり読みこめば鮎川氏の戦争に対する憎悪と、その戦争で犠牲となった小さき者たちへのデリケートな配慮が詩の行間から感じられることであろう。
 鮎川氏は詩人のみならず詩の評論家としても有名である。特に『現代詩作法』(牧野書店)は戦後詩を語るものなら必読の内容だろう。他にT・S・エリオット『詩と批評』の翻訳(荒地出版社)などの仕事がある。 

 さて本書『鮎川信夫詩集』は戦後詩の出発点と名実ともに呼ばれる詩篇「死んだ男」を収録する。この詩のなかで語られる「M」とは鮎川氏の若き日の盟友、森川義博のこと。特にあまりにも有名な冒頭の一節「たとえば霧や あらゆる階段の足音のなかから 遺言執行人が ぼんやりと姿を現す。−これがすべての始まりである。」では鮎川氏自身が「遺言執行人」として、つまり死んだ「M」の遺志を受け継ぐ者として、「姿を現す」つまり詩人として登場することを指しており、戦後詩の開始宣言とも読める一編である。  また戦後詩のベスト3には必ず入る「搬船ホテルの朝の歌」も収録されており、戦後詩史において極めて重要な位置を占めると思われる詩集である。
 本書は安い店なら3000円程度で買えるので詩の初心者にお薦めの一冊。また極めて出やすいこともありがたいことといえよう。

 

(黒猫館&黒猫館館長)