ひとつの奇跡

 

 

 

誰一人として口を利く者もいない黒猫館地下13階「聖域」。
黒猫館館長以下すべての黒猫館住人はただひたすら光姫の無事を祈り冥想に入っていた。

とその時。
地面に突き刺さっていた「エレザールの鎌」と「聖剣エクセリオン」が小刻みに震えだす。
次の瞬間、ふたつの神々の武具は宙に舞った。

高速で回転しながら上昇してゆく「エレザールの鎌」と「聖剣エクセリオン」。
二本の武具がX字型に交差して静止する。
その真後ろには黒猫館守護神像本尊がある。 

 

 

 

 

 

突然キーンと黒猫館住人全員の脳髄に衝撃が走る。
黒猫館守護神の声が再び聞こえ出す。 

 

「黒猫館守護神」

お聞きなさい。
すべての黒猫館住人たちよ。

存在の長の触手の一本はわたしが破壊しました。
しかしその代償としてわたしは神としての能力を失いました。

わたしは本日をもって黒猫館を去ります。 

 

 

「黒猫館館長」

守護神よ。
それでは黒猫館はもうオルフェウス寺院としての機能はなくなります。
われわれ黒猫館住人はこれからどうしたらいいのでありましょうか? 

 

 

「黒猫館守護神」

第121代黒猫館館長よ。
良くお聞きなさい。

オルフェウス教の最後の司祭としての貴方の役割は本日を持って終了します。
それと同時にオルフェウス教そのものもこの惑星から消滅します。

しかし。
心配することはなにもありません。
貴方がた人間にもう「神」は必要ありません。
そのことをわたしは今回の「聖域」での戦いで確認しました。

人間は人間を神としてこれからの時代を生き抜いてゆくのです。
「独立」。
その時が今なのです。

黒猫館館長。

貴方は新しい黒猫館、すなわち人間の人間による人間のための初代館長となるのです。

 

 

「黒猫館館長」

人間の人間による人間のための新しい黒猫館・・・。

 

 

「黒猫館守護神」

それでは。
初代館長。

もし貴方が良かったら、かって黒猫館に「神」がいたという事実を二代目、三代目、そして限りなく。
「小さなおとぎばなし」として伝えていってくれますか?

 

 

「黒猫館館長」

了解しました。
守護神よ。

それが貴方のお望みであるなら。
しかと。
承りました。

 

 

 

「黒猫館守護神」

口承の時代から放浪の時代。
そして独逸国シュバルツバルトの時代からインターネット上のウェブ・サイトの時代へ。
そしてまた新たな黒猫館は誕生してゆくことでしょう。

しかし。

いつの時代でも黒猫館の精神はひとつです。

初代館長。
わかりますね?

 

 

 

「黒猫館館長」

わかっております。
黒猫館はいつも、これからも、永遠に、
虐げられた者、死のうとしている者、絶望の極みで踏みとどまっている者、激烈な苦痛に耐え忍んでいる者。
そのような者たちの絶対の味方であると。

 

 

 

 

 

「黒猫館守護神」

では。
「聖剣エクセリオン」は此処に置いてゆきます。
七万五千年後。
本当の決戦の火蓋がきられるその時のために。

そして。
くらやみ男爵は浄化され、創造神イエホヴァが姿を隠している現在。
「エレザールの鎌」はもうこの宇宙に存在する必要はありません。
この鎌をわたしはひとりの勇者のために使用しようと思います。 

 

 

 

 

 

とその瞬間、「聖剣エクセリオン」は再び回転しながら宙を舞った。
そして急降下して元の守護神像本尊の前に突き刺さった。
あとに残された「エレザールの鎌」が発光を始める。
次の瞬間、「エレザールの鎌」は無数の金粉となって砕け散った。

「聖域」に金の粉が舞う。

 

 

 

 

「影姫」

なんという。
なんという輝き。
まさしく金色の吹雪ですね。


「黒猫館館長」

美しい。
あまりに美しい光景だ。
しかしこれはなんの兆候なのだ?

 

金色の粉はやがて一筋のうねりとなって、
かって浮世渡郎と呼ばれていた亡骸に吸い込まれてゆく。

 

 

その時、ひとつの奇跡が起こった。

浮世渡郎の亡骸がピクリと動く。
死後硬直が解け、四肢が投げ出される。
顔面に表情が戻ってくる。 

  

 

 

「浮世渡郎」


あ・・・
ああ〜。
雨宮じゅん、早見純、牧村みき・・・
エロ漫画が読みてえ・・・ 

 

 

 

「浮世トミエ」

あ、あ、あ・・・あんたーーーーーーーーーーッツッ!!! 

 

「黒猫館館長」

浮世君!!
生き返ったのか!?
奇跡。
奇跡が起こった。・・・


「影姫」

浮世。
貴方らしいですね。(微笑)

 

 

 

「黒猫館守護神」

それでは。

光姫も今帰ってきます。
すべての黒猫館住人たちよ。

わたしから貴方がたに最後のメッセージを送りましょう。

そして今、このディスプレイを観ている貴方に向けても。