最終章
運命と意志
「黒猫館守護神」
光姫が今、「聖域」に到着したようです。
「聖域」の中空付近に突如出現する光の廻廊。
その廻廊の遥か向こうから一人の若い女性が走ってくる。
その光景はあたかも「新しいタイプの人間」の誕生を象徴するように黒猫館全員の眼に映った。
それはあたかも母体から赤ん坊が生み落とされる瞬間の光景にも似たある種の荘厳さを伴いながら。
「光姫」
光姫只今帰還しました!
「黒猫館館長」
うむ。
良くやった。
良くやったぞ。
光姫。
今、この瞬間からもうお前は「子供」ではない。
一人前の「立派な大人」だ。
ひとりの「大人」としての義務と責任をわきまえて、
日本に帰るが良い。
そしてあと一年、悔いのない学生生活を送りなさい。
「影姫」
光姫。
いつのまにか大人の顔になりましたね。
今回の「聖域」での戦いが貴方を大人にしたのです。
私の妹であるのなら。
いつか私に追いついて、そして追い越してゆきなさい。
貴方にはそれが出来る筈です。
「光姫」
了解しました!
館長様、オネエ!
「黒猫館守護神」
それでは。
すべての黒猫館住人たちよ。
わたしから最後のメッセージを送ります。
まず、
黒猫館館長。
貴方はインターネット上のウェヴ・サイト黒猫館の管理人代表として、
これからもますます閲覧者の役に立つ、そして喜ばれるコンテンツの充実を目指しなさい。
当然、「更新」は毎日行いなさい。
「黒猫館館長」
ははっ。
了解しました。
しかし「毎日更新」はこの歳ではちと厳しいですがなあ。(笑)
「黒猫館守護神」
次に
影姫。
貴方は「SM」のプロフェッショナルとしての自覚と誇りをもって、
地下六階「私立男泣島矯正院」の運営を行いなさい。
世の中には鞭打たれ、辱められることでしか、
心が癒されることのないひとたちがたくさんいます。
貴方はそのような男性たちを精一杯の力で労わりなさい。
「影姫」
わかりました。
人間が百人いれば百通りの愛のカタチが存在します。
その愛のカタチのなかでもマイノリティに属するひとたちのために、
わたしは今後も努力してゆくつもりです。
たとえ世の人たちから「変態趣味」「異常性欲」などなにを言われようと。
わたしは確信しています。
この世に「性倒錯者」などひとりもいません。
ただ無数の愛のカタチのバリエーションがあるだけなのです。
「黒猫館守護神」
次に光姫。
わたしから貴方に伝えたいことはもう「神々の宮」で告げました。
ところで光姫。
卒業論文の題名は決まりましたか?
「光姫」
はい。
守護神様。
卒業論文の題名は「世阿弥の『風姿花伝』における「時分の花」と「真(まこと)の花」の相違について」
です。
「黒猫館守護神」
光姫。
良いテーマです。
論文を書くにあたって大切なことは「テーマを絞り込む」ことです。
それから誤字・脱字には十分注意しなさい。
そして一番大切なことは「自分の書いていることをわかり易い言葉で他人に説明できる」ことです。
それが出来るなら口頭試問も全く怖くありません。
がんばりなさい。
「光姫」
守護神様。
肝に銘じておきます。
「黒猫館守護神」
次にハムちゃま。
貴方は特撮ヒーロー番組の専門家としてこれからも『仮面ライダー』や『スーパー戦隊シリーズ』
の研究と普及に力を尽くしなさい。
現在、特撮ヒーロー番組の主要視聴者層は子供より30代〜40代の大人が多いと言われています。
ハムちゃま。
特撮ヒーロー番組は現在、「大人の文化」として根付くか否かの分岐点に立っているのです。
貴方は専門家として出来るかぎりの努力をしなさい。
そうすれば特撮ヒーロー番組の未来は明るいでしょう。
「ハムちゃま」
ろじゃあーーー!!!
「黒猫館守護神」
次にロボくん。
貴方が本当に「やりたいこと」はなんですか?
「ロボくん」
それがボコにはまだわからにゃいんだロボ。
「黒猫館守護神」
自分の本当にやりたいことがわからない。
それならば「本当にやりたいことを探す」ことを
「本当にやりたいこと」にしなさい。
そうすれば貴方も必ずいつか
「本当にやりたいこと」に辿りつけるでしょう。
「ロボくん」
わかったロボ。
「黒猫館守護神」
次に浮世渡郎。
「浮世渡郎」
は、はい!!(汗)
「黒猫館守護神」
地上に帰ったら即座にもう何年も放置している貴方のサイト、
「早見純のすばらしき世界」
の更新作業に着手しなさい。
「早見純」
が最近急激に再評価され始めた原因は、
「早見純」の漫画が本当に人間の心の深い部分まで食い入る
、いわば「本物」であったからです。
貴方はそんな「本物」に眼をつけることができたのです。
故に世間に「早見純」の漫画の素晴らしさを伝道してゆくことは、
貴方の「使命」です。
わかりますね?
「浮世渡郎」
わ・・・
わかりました!
はい!!(汗)
「黒猫館守護神」
次に浮世トミエ。
貴方が今回の「聖域」で見せた
勇気。
それは世の女性たちにも勇気を与えたことでしょう。
その「芯の強さ」「粘り強さ」を武器にして、
今後の生活に役立てていきなさい。
「浮世トミエ」
守護神様。
わかりました。
「黒猫館守護神」
次に土野雨郎。
貴方の「映画評論」には独特の着眼点があります。
その着眼点を大事に育てなさい。
そうすれば貴方もいつかは
「蓮見重彦」に
追いつき追い越すことができるでしょう。
がんばりなさい。
「土野雨郎」
ほえ〜〜〜!!
ありがたいお言葉!!!
く・・・くひーーーーーー!!!(感動)
「黒猫館守護神」
次に豚男&隷
貴方がた二人のご主人様を一途に想う気持ち。
それは「マゾヒズム」などという通俗的な言葉で説明できるものではありません。
貴方がた二人はいわば「マゾヒズム」を超えた「ロマンチズム」。
そのようなものを天性の素質として持っています。
その素質を大事に育ててゆきなさい。
「豚男&隷」
了解しました。
守護神様。
「黒猫館守護神」
次にヤプー1号。
貴方がHNを江川達也の漫画版『家畜人ヤプー』から考えたことは知っています。
それならば次は石ノ森章太郎版『家畜人ヤプー』、
そして原作である沼正三の『家畜人ヤプー』へと読み進めていきなさい。
そのような「探求の精神」を大事にしてこれからの人生を歩んでゆくならば
貴方は「高橋鉄」や「斎藤夜居」のような立派な風俗研究家として身をたてることができるでしょう。
がんばりなさい。
「ヤプー一号」
は・・・
はい、、、はい。
ヤプーは・・・ヤプーはいま猛烈に感動しています!
感動しても弱いけど。
「黒猫館守護神」
次に水着フェチX。
貴方の「競パン」にかける情熱には眼を見張るものがあります。
最近では「スパッツ型水着」が幅を利かせて
「競パン」派の男性が肩身の狭い思いをしているという事実があります。
そんな時代だからこそ。
貴方は「競パン」の素晴らしさを
世に伝道してゆきなさい。
「水着フェチX」
わかったっす。
はい。(無愛想)
「黒猫館守護神」
次に怪人M。
貴方が「フーリエの理論」に非常に詳しいことは知っています。
「フーリエの理論」を現代に生かす道を切り拓きなさい。
「フーリエの理論」の現代的受容は貴方の手にかかっています。
「怪人M」
は・・・
はいいいい!!!
・・・ん?
んんん??
「黒猫館守護神」
最後に優。
貴方の不幸な生い立ちについてはわたしも良く知っています。
しかし今まで不幸だった分を今後の貴方の努力で清算しなさい。
幸福とは向こうからやってくるものではありません。
あくまで自分の手でつかみ取るものなのです。
優。
イェール大学にいる彼女と共に自らの人生を切り開てゆくのです。
わかりますね?
「優」
わかりました。
守護神様。
「黒猫館守護神」
そしてこの今、このディスプレイを見ている貴方。
貴方の人生もまた貴方の単調な日常生活における孤独な闘いのなかから切り開かれて行くでしょう。
「希望」とは。
常に残酷な運命に拮抗しようとする人間の意志のなかに瞬間的に見出されるものなのです。
故に貴方もまた。
貴方を押し潰し、世界の外へと追いやろうとするありとあらゆるすべての暴虐と闘いなさい。
その「闘いのダイナミズム」。
それこそが人間の人間たる証なのです。
しかし暴虐に対して憎悪で報いてはなりません。
貴方の闘いはむしろ愛と希望の力を武器として行われなくてはなりません。
そうするならば、貴方もいつかあらゆる暴虐の楔を打ち破ることが出きるでしょう。
愛と希望のすべての戦士たちよ。
闘いなさい。
朝の眠気と。
ガンガンとうるさい目覚まし時計と。
朝刊の不愉快な記事と。
満員電車と。
満員電車のなかで突然起きる「過敏性大腸」が原因の下痢と。
なぜかいつもとんでもなく汚いJRの公衆便所と。
貴方が女性であるならば「痴漢」と。
貴方が男性であるならば「痴漢冤罪」の恐怖と。
会社のタイムカードと。
学校のチャイムと。
よくわからない「数列」や「関数」と。
なんのために覚えなくてはならないのかわからない「日本史・世界史」の年号と。
掛け算の九九の暗記と。
「古典」の複雑な語尾変化と。
年下のくせに生意気な部下と。
威張り散らす上司と。
アルバイトを人間とも思わない店長と。
いじめっ子と。
ひいきする先生と。
PTAと。
昼食時にはいつも満員の定食屋と。
昼食後の眠気と。
午後の身体のダルさと。
「お前の絵は下手だ」と言って生徒の心を傷つける美術教師と。
運動が苦手なのに無理やりやらされる「剣道・柔道」と。
丸坊主の校則と。
授業中に後ろから消しゴムのカスを投げてくる嫌なやつと。
中間試験と。
期末試験と。
補修授業と。
高校受験と。
大学受験と。
大学院受験と。
就職活動と。
就職試験の面接で失礼なことを言う会社の役員と。
外国語の能力ばかりが評価される大学院と。
アルバイトの年齢制限と。
20歳になってしまったという不安と。
30歳になってしまったという不安と。
40歳になってしまったという不安と。
50歳になってしまったという不安と。
もう還暦だ、という諦念と。
老後への心配と。
田舎なので時給650円しかでない不合理と。
いつも満員でそのくせ良い職場を紹介しないハローワークと。
休日出勤と。
サービス残業と。
仕事が終わって帰りたいのにむりやり連れて行かれる「赤ちょうちん」と。
イッキ呑みを強制する無礼な同僚と。
会社帰りにホームレスを見ると自分の将来が暗く見える厭世的気分と。
帰りの満員電車と。
始発電車の大人げない座席取り合戦と。
1時を過ぎたら止まってしまう私鉄と。
酔っ払いでいつも満員のカプセルホテルと。
電車の床をどろどろ流れる嘔吐物と。
家に着いたと思ったらなぜか怒っている妻と。
タイマー予約したのになぜか動いていないビデオデッキと。
NHKの「日曜美術館」を観ようとしたら、いつも「再放送」である不愉快さと。
昔に比べて面白くなくなった「大河ドラマ」と。
妻が不機嫌な時に必ず来るNHKの徴収員と。
「東京テレビ」が映らない地方の不便さと。
カラオケに行ってもいつまでたっても自分の番が回ってこないことへの怒りと。
スポーツクラブの入会費の高さと。
温泉に行ってもマッサージ代金が一時間4000円なので高すぎてやってもらえない怒りと。
不眠と。
睡眠薬の苦さと。
ちょっと胃の具合が悪いとすぐ「胃カメラをやりましょう」という患者の苦痛を理解しない医師と。
いつも超満員で2時間以上待たされる病院と。
夜中の3時になると必ず鳴る無言電話の恐怖と。
アパートの壁をコツコツ叩く不気味な隣人と。
ストーキングされているのではないか?という被害妄想と。
一人暮らしの孤独と。
孤独に耐えられない自分の弱さと。
道路に面した場所にあるので危険極まりない「郵便受け」と。
ベットの裏に隠してあるアダルト雑誌が親に見つかった時の気まずさと。
アダルトビデオの声が隣の部屋に聞こえてしまう気まずさと。
2000円以上するアダルト雑誌を買って、ビニール袋を開いたらあまりにテンションの低さに失望してしまういつもの習慣と。
『現代思想』を読んでもよくわからない苛立ちと。
後半になったらテンションが下がってなし崩し的に終了する陳腐な小説と。
漫画の後ろの方の巻がなかなか手に入らずいつまでたっても読めない苛立ちと。
図書館の本に挟まっている「髪の毛」とか「鼻くそ」とかそういう嫌なものと。
古くなったので風が吹き込んでくるような風呂場と。
家族全員で使っているのでいつも臭いトイレと。
食後の皿洗いの面倒さと。
飲もうと思ったらビールが冷えていないショックと。
子供のやっている「プレステ」の面白さがよくわからないもどかしさと。
平成仮面ライダーの低迷ぶりと。
ゴジラとハム太郎がなぜか同時上映であることへの怒りと。
『ロード・オブ・ザ・リング』の登場人物が多すぎて話の筋がつかめないもどかしさと。
田舎なので「深夜アニメ」が観られない怒りと。
なぜかいつも衝動買いして後で後悔するDVDと。
「初回特典」で購買層の拡大を狙う企業の陰謀と。
ちょっとも動かないHPのアクセスカウンタと。
誰も書き込まない掲示板と。
「こんな文章誰が読むんだ?」という更新作業中に巻き起こる嫌気と
相互リンクを強要してくる商用サイトと。
「架空請求」のメールが突然くるショックと。
毎日必ず来るウイルス添付ファイルと。
スパイウェアと。
アドウェアと。
「グロ画像を見てみたい」という誘惑と。
いつも行っているHPがある日突然閉鎖してしまっていることへのショックと。
バイアグラの不正売買の広告と。
文章を書いていたらパソコンがフリーズしてしまい台無しになってしまった怒りと。
その他すべての不合理と。
さあ、おゆきなさい。
光と希望の戦士たちよ。
万物流転。
輪廻転生。
永劫回帰。
闘いの途上。あるいは無力感に苛まれる夜。
貴方の闘いが永遠に廻る円管の上をループしているだけと思う時もあるでしょう。
しかしその円管自体を少しずつ動かしてゆく力
それが愛なのです。。
そしてその無限に続く闘いの最後の楔を砕く者。
それが貴方なのです。
愛を。
希望を。
光を。
労わりを。
勇気を。
日本の果て、いや地球の果て、いや宇宙の果てまでも伝達しなさい。
今こそ、すべてが終わり、すべては始まる。
いまこそ新生の時。
世界を変えるのは貴方。
今この画面の前にいる、
貴方。