闘技場 

(地下十階)

 

(広大な地下に広がるコロッセウム。そこで向かい合って立つくらやみ男爵と光姫。)

 

<くらやみ男爵>

さて・・・殺し合いを始めるか?
光姫よ。

その前にわたしの目的についての貴様の意見を修整しておく。

わたしの目的は黒猫館ののっとりなどというチャチな戯事ではない。
もちろん黒猫館は一番最初に消滅させるがな。

その後に死と憎悪と破壊がこの惑星に齎されるだろう。
すべての人間は絶望と恐怖の叫びをあげながら地獄へと送還される。

そしてその後に「闇」がくるのだ。
果てしのない「闇」が。

この惑星に、・・・いや太陽系、銀河系、全宇宙を「闇」に帰す。
それがわたしの目的だ。

光姫よ。
貴様ごときにこの「目的」の意味がわかるか?

 

<光姫>

わかりません。
いや、わかろうと思わないと言ったほうがいいでしょう。

くらやみ男爵。
あなたが一体何者であるのか?
そしてあなたの無限の憎悪がどこからくるものなのか?
そんなことはわたしには興味がありません。

ただわたしが今考えていることはあなたをこの場で葬りさること。
それだけです。 

 

<くらやみ男爵>

ふふ・・・
ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーーー・・・

龍を追う者はまた龍となる。

みえるぞ。・・・みえるぞ。
おまえの心に棲む「憎悪」。
それが今、急激に膨張しつつあることを。

憎め・・・もっと・・・もっとわたしを憎むがいい。・・・
そうすればわたしはもっともっと強大になる。
そしておまえはどんどん弱くなってゆく。
最期に「おまえはわたしになる」のだ。

憎め!憎むがいいぞ!!
このわたしを!!

ふぉーーーーーふぉふぉふぉーーーーー!!! 

 

<光姫>

意味のわからないことを!

光姫、参る!! 

 

破邪神技「光の矢」!!

(光姫の手がゆっくりと回転する。それにつれて輝きだす手の平の光明。今ふたつの光明がくらやみ男爵に向かって放たれた。)

 

<くらやみ男爵>

ふふ・・
ふぉーーーーーふぉふぉふぉーーーーーー・・・

なんじゃ?この懐中電灯のような光は?
こんなものでわたしを消滅させるだと!?

日曜朝にテレビ朝日でやっているアニメ番組ならこれで通用するかもしれんがな。・・・

笑わせるなッ!!

本当の魔術とはこういうものをいうのだ。

ええい・・・往くぞ。 

 

無間冥界呪法「暗視」!!
<α>

(くらやみ男爵の双眼がカツッ!と開かれる。そして黒い光としか言いようのない異様な光線が光姫に向けて放たれた。
身をかわそうとした光姫の左手に黒い光線がヒットした。痛みを堪えながらうずくまる光姫。)

 

<くらやみ男爵>

痛いか・・・?
それは痛いじゃろうな・・・
肉の焦げる臭い。
なんという心地良い香りじゃて!

ところで光姫よ。
人間とはなんと弱いものよのう?
たかだか70年前後しか生きられず、
暑さにも寒さにも弱く、
群れなければ生きてゆけない。・・・

嫌になってこんか?・・・
人間でいることが?

もしおまえが人間を止めるというのなら
これまでの健闘に免じて命だけは助けてやらんこともないかもな・・

ふふ・・・
ふぉーーーーーふぉーーーふぉふぉふぉーーーー!!! 

 

<光姫>

お黙りなさい!!
くらやみ男爵。

確かに人間は一人一人ではあまりにか弱い存在です。
しかしひとりでも仲間がいれば人間の力は無限に増幅するのです。

それはあなたのいう「群れる」ということではありません。
人間同士の紐帯の絆を結ぶ、そのことさえできれば人間は無限に強くなるのです。 

 

<くらやみ男爵>

ふふ・・・ふぉーーーーふぉふぉふぉーーーーーーー!!!

ではおまえの仲間はなにをしておる?
地上でぶるぶるとわたしに対する恐怖に怯えて誰も地下に降りる者はいないではないか?

・・・笑わせるなッ!!

人間は滅亡する。
その弱さ。
弱さから派生する嫉妬・うらみ・ルサンチマン。
そして最期に生み出される世界への無限の憎悪。

この惑星における憎悪のパワーは20世紀に入ってから加速度的に増幅している。
人間は22世紀までに確実に滅亡する。
これは「断言」だ。 

 

<光姫>

クッ・・・くらやみ男爵・・・ 

 

<くらやみ男爵>

どうした?ついに言葉に詰まったか?
光姫よ。

そろそろ潮時だな。
おまえを地獄へ送還する。
無間冥界呪法高等奥義「葬儀」でな。
ではいくぞ・・・!! 

 

(その時一匹のハムスターが物陰から躍りでた。そしてくらやみ男爵の手に噛み付いた。) 

 

<ハムちゃま>

ハムちゃまだって闘うんでちゅ!!
正義は必ず勝つんでちゅ!! 

 

<くらやみ男爵>

くうううう〜〜〜。
この、、、このネズミごときがッ!! 
わたしに触れるなッ!!!

 

(くらやみ男爵によって叩き飛ばされるハムちゃま。そしてハムちゃまに駆け寄る光姫)

 

<光姫>

くらやみ男爵・・・
あなたは・・・あなたはこんな小さな子にまで・・・ 

 

<ハムちゃま>

闘うんででちゅ・・・
闘うんでちゅ・・・
仮面ライダーやスーパー戦隊みたいにハムちゃまだって戦うんでちゅ・・・ 

 

<光姫>

見ましたか?
くらやみ男爵。

ハムちゃまはわたしたちの立派な仲間です。
こんな小さな身体でもまだ闘う意志を捨てていません。

こんな素晴らしい仲間がいる限りわたしたち人間はあなたのような悪鬼に負けるわけにはいかないのです! 

 

<くらやみ男爵>

ふふ・・・
ふぉーーーーーふぉふぉふぉふぉーーーー・・・

ネズミと小娘の2匹が仲間になってなにができるというのだ?

2匹まとめて地獄に送ってやる・・・!!
今度こそ本当に最期だ。

ゆくぞ!! 

 

(その時闘技場の入り口が重い音を立てて開いた。)

 

<光姫>

オネエ・・・!!