『対話』

 

  

茨木のり子著。不知火社刊。初版昭和30年11月20日限定400部発行。函完本。角背上製。 

  茨木のり子は1926年大阪に生まれる。東邦大学薬学部卒。昭和28年、川崎洋と詩誌『櫂』を創刊。詩集に『対話』『見えない配達夫』『鎮魂歌』など多数。
 茨木のり子は戦後の女流詩人の中で最も幅広い社会意識と健康な批評精神をもったひとりである。その詩風は明るく明快でヒューマンな語り口で主婦の生活実感に即したテーマを率直に謳いだす点にある。
 このような女流詩人は戦前にあっては見当たらず、戦後にあっても稀である。このことによって茨木のり子は戦後の詩壇においてきわだった位置を占めている。
 昨今、最後の詩集『寄りかからず』(筑摩書房)が発行されたが、この詩集でも茨木のり子は広く現代の若者を中心とする層に支持を受け、さらなるファンを増やした。

 さて本書『対話』には、茨木のり子の出発点ともいえる「魂」や後年の名編「わたしが一番綺麗だったころ」を予感させる「もっと強く」などが収録されている。そこには敗戦を契機にのびやかに人生を出発しようとする若き日の茨木のり子の決意がうかがえる。H氏賞候補となった第二詩集『見えない配達夫』(飯塚書店)のほうが詩壇的評価は高いが、すでにこの第一詩集『対話』において、茨木のり子は自己の詩のスタイルを確立していると言ってもよいだろう。

 さて『対話』は昨今急激に古書価が急騰、しかもめったに市場にでない極めてコレクター泣かせの難本となってしまった。それでもほしい人は心を鬼にして探すしかないだろう。運がよければ二万円代で入手することも可能。

 最後にこの『対話』は最近「童話屋」という出版社から復刻されますます新たな読者層を広げている。

 さて最後に本書の出版社「不知火社」についてであるが、この「不知火社」は本書『対話』一冊を出版してから、すぐに倒産してしまったらしい。そのため『対話』がゾッキ本として流れたという話もあるらしい。その時期に買っておけば良かったと思うのがコレクター魂であるが、時すでに遅しで現在では本書は稀こう本になってしまった。

 

(黒猫館&黒猫館館長)