『魔王』(創刊号+第2号)

 

 

創刊号=書肆不死者画報発行。2002年4月1日発行。限定100部。定価1000円。外装なし完本。 

第2号=書肆不死者画報発行。2003年5月30日発行。限定300部。定価1200円。折込カバー完本。造本=間奈美子。 

  

 『季刊 幻想文学』や『夜想』、あるいは『森』、『ソムニウム』など商業雑誌と同人雑誌の中間に位置しているような独特の雑誌の一群が昔から日本の出版界の世界の片隅で、ひっそりとまるで隠花植物のように存在し続けている。
 それらの雑誌に共通することは執筆者たちのどうしやうもない「情念」がありありと溢れ出ていることである。
 「この想いを吐きださなくは死んでも死にきれないッ!!」・・・そのようなどろどろとした情念、熱すぎる熱情、それでいて奇妙に屈折しているような独特の物の見方、そういうものがこういう雑誌の基調低音として重く響いている。

 21世紀に入ってそういう雑誌はもう姿を消したは筆者は思っていた。
 しかし現在(2019年)、筆者はある偶然から『魔王』という奇妙な雑誌を見出した。
 どうもこの雑誌は創刊号と第2号しか出なかったらしい(断言はできない)。
 発行所も「書肆不死者画報」という謎めいた出版社??から出版されている。

 この雑誌の創刊号は「ベルメール×ウルスラ×ウニカ特集」&第2号は「魔女のいる文学史」と一見、西欧の幻想異端文学の研究雑誌のようである。
 しかし実は「三島由紀夫の切腹」について「マゾヒズム礼賛」の観点から熱っぽく語ったり(創刊号)、「性器奇形」というなんともグロテスク極まる現象(ひとりの人間の下腹部に10本のペニスが生えているなど)についてまるでカストリ雑誌なみの猟奇趣味満点の口調で嬉々と語ったり(創刊号)、かと思えば昭和20年代に「鈴木しづ子」という女流俳人が娼婦に身を堕としながらも『指輪』という性愛俳句の句集を出版したとか(第2号)興味本位の読者の欲求にぞんぶんに応えることができる猟奇趣味満点の雑誌に仕上がっている。

 この『魔王』という雑誌の建前は「文藝雑誌」なのであるが、そこから情念がブシュ!と迸り出るがごとく「文藝雑誌」の域を大きく超えてしまった印象が本雑誌には漂っている。
 もちろんそのような「逸脱」を行いながらも「文藝雑誌としての品格」をぎりぎりで保っているのは執筆人の知性と教養のレヴェルの高さがもたらした僥倖であるだろう。

 さて本雑誌の創刊号は外装なしながらも異端の画家「亡月王」の作品を大胆に表紙に配したり、第2号の装釘は現在「アトリエ空中線」を主催している間奈美子氏を起用したりなかなか装釘面でも見所がある雑誌と言えるだろう。

 最近2010年代に入ってから急速に姿を消しつつあるこの『魔王』2冊をガッチリと書架に加えることは幻想異端文学派の古書コレクターの諸君には必定であると思われる。
 古書価はまだ定まっていないが最近ぐんぐん上昇している傾向が感じられる。
 ごく小部数しか発行されなかった『魔王』2冊、さて今後の古書的な「出世」はいかに??
 

 

(2019年&黒猫館&黒猫館館長)