『百花事典 Ⅰ 女神』

 

  

折込表紙・元パラつき完本。有限会社真理花発行。初版昭和62年4月10日。序文=高山宏。編集=高橋睦郎。挿画=野中ユリ。制作=吉野史門。定価=1000円。縦長本。挿絵多数。小型本。
  

 内容>序文=「イシスの川」。本文=「女神の原型」「女神と男神」「さすらう女神」「聖婚」「聖女」「娼婦」妹の力」「禁忌」「神託」「インドの女神たち」「変身」「両性具有」「現代の女神たち」他。

 わたしは1998年ごろ、東京郊外のある私鉄沿線で古書を漁っていた。
 芥川賞、直木賞などの名立たる名著がガッチリと立ち並んでいる。
 そんな中に何か細い本が挟まっている。
 わたしは「何だ?この本は??・・・」とひょいとその本を引き出した。
 それがまさにわたしと本書の運命的な出会いだったのである。

 わたし「むむー、、、なかなか面白い本だな」などと思いながらわたしは本書の値段を見た。
 なんと「8000円」。
 わたしは「うひゃー!」と叫ぶと本書をいそいそと書棚に戻すとその古書店を後にした。
 その後、その古書店に何度か足を運んだのであるが、本書はまるで神隠しのように消えてしまった。

 さてそれからなんと20年が経過した2018年。
 わたしはYオークションで偶然安く本書を入手した。
 その間わたしは一度も本書を実際に見たことがないし、古書目録で見たこともない。
 まさに「幻の本」と呼んでも差し支えのない本が本書であろう。

 さて、本書は「事典」の形式を取っている本である。
 古代ギリシャ文化についての権威である高橋睦郎が本文を担当しているだけあって、内容はなかなかに本格的である。
 サンリオなどから出ている小型絵本とは明らかにグレードが違う本である。
 まさに「なりは小さいが本格的」な本が本書なのだ。

 さらに野中ユリによる華麗な挿絵がほぼ全ページに入っている。
 この挿絵を見るだけで楽しめるような瀟洒でセンスの良い本に仕上がっている。

 ぜひこの稿の読者の諸君にも本書を手にとってもらいたいとわたしは思っている。
 高橋睦郎のプライヴェートプレス「善財窟」の吉野史門が造本を担当しているだけあって、本書は気が利いていてお洒落な本と言える。
 女性の諸君にもぜひ本書をお勧めしたい。

 さて本書の古書価であるがこれがまるっきり定まっていないらしい。
 2500円程度で入手できることもあれば、8000円までつく場合もある。
 わたしとしては読者の諸君になるべく安く本書を入手してもらいたいと思っている。

 最後に気になるのが本書には「Ⅰ」と銘打たれていることだ。
 すると「Ⅱ」もあるのか??と考えてしまうのが人情というものであるが、わたしは某筋からのウワサで「Ⅱ」の存在を聞いたことがある。
 読者の諸君も念入りに古書店の書棚を見てほしい。
 もしかしたら「Ⅱ」が本当に出てくるかもしれないぞ。。。

 こんな本がまだ色々あるのなら、古書の世界はまだまだ謎に満ちている。
 以前は「幻」だった本がネットの普及により、次々と化けの皮を剥ぎ取られていくなかで、本書のような「幻の本」がまだまだあるのなら古書の世界はまだまだ夢に満ち溢れている。

 そんな古書マニアに色々な意味で「夢」を与えてくれるのが本書であると、わたしはつくづく思ったのである。

 

 (黒猫館&黒猫館館長)