『ジャミラ祈念日~ウルトラ怪獣のためのレクイエム~』

 

 

松本賀久子著。2000年6月10日発行(初版)。風塵社発行。カバー・帯完本。薄冊71P。ソフトカバー。定価1600円。

 

「内容」 
  
 バルタンの星
 ジャミラ祈年日
 
271号(ダダ)
 ゲスラの海
 ピグモンは眠るか
 レッドキング
 翼のドドンコ
 ぺスターの死
 がまくじら
 ガバドン昇天
 ブルトンの夢
 ザラブ、兄弟
 高原竜の子
 噴煙怪獣
 剥製の口々
 黄金の竜
 ゆきのこども
 メフィラス
 すかいどん
 宇宙恐竜

あとがき
怪獣解説 原田実

 10年前ぐらいだったと思う。
 わたしは自宅の近所のブックオフの100円均一コーナーで偶然本書を発見した。
 正直言ってわたしはそんなに本書に興味があったわけではない。
 『ジャミラ祈念日』という題名に多少興味があったからである。

 昨今ではインテリを気取った連中が「ジャミラ」といったら「アルジェリアの独立運動家のことだよ。」などという鼻持ちならない発言をすることがあるが、そんな余計な知識は怪獣愛好家であるわたしには関係のないことである。
 わたしととって「ジャミラ」といったら小学生がシャツの中に頭を入れて顔だけ出す「ジャミラごっこ」をやっている「あのジャミラ」に決まっている。

 さて本書はもちろん「アルジェリアの独立運動家」のジャミラについての詩集ではなく、「怪獣の」ジャミラについての詩集である。
 ジャミラの他にもゼットンやバルタン星人やレッドキングなど有名怪獣がゾクゾク登場する特撮ヲタクにとっては堪えられない内容の詩集になっている。
 
 この作者の「松本賀久子」氏についてわたしはまったくなにも知らないが、恐らく怪獣&特撮ファンの方なのだと思う。
 そうでなくてはこれほどまでにウルトラ怪獣への愛に満ちた詩篇を書けるわけがない。
 本書に於ける怪獣たちはみな一様に悲哀に充ちた存在として描かれている。
 もちろん「ジャミラ」は悲しい怪獣である(宇宙飛行士が異星で怪獣化して人間への復讐のために地球へ帰ってきた存在)ことは怪獣ヲタクとして常識であるが、「ダダ」や「ピグモン」や「ガバドン」といった怪獣まで悲しみに充ちた存在として描かれているのには正直驚いた。
 これは作者の松本氏の詩的資質の要因が大きいと推測できるが、それ以前に「怪獣」というものの基本的な性格(異形として生まれて、最期は殺傷されて終わる。)に起因するものであるだろう。
 それほどまでに本書に登場する怪獣たちはみな一様に悲しい表情をわたしたち読者に投げかけてくるのである。
 
 わたしとしては本書収録の詩篇では表題作「ジャミラ祈念日」もイイが「271号」(ダダ)、「ピグモンは眠るか」(ピグモン)、「メフィラス」(メフィラス星人)が特に気に入った。
 小学生時代からの年季の入った怪獣ヲタクであるわたしを唸らせるほど、松本氏の詩群はその怪獣の本質を深く読みこんでいる。
 やはり怪獣&特撮ヲタクたるもの、これほど深く怪獣や特撮ドラマについて考えなくてはならないのだろうと、わたしは本書を読んで怪獣に対する認識を一新させられたわけである。

 さて本書のサブカル系評論家の原田実氏が登場する怪獣一匹一匹について詳細な解説を書いている。
 これで怪獣ヲタクではない読者も本書を読んで十分に楽しめるというわけだ。
 まさしく読者サービスに長けた優れた詩集に仕上がっていると評価されて良いだろう。

 さてアニメの世界ではアニメの世界を短歌にした「サブカル短歌」というものが流行しているが、怪獣&特撮の世界でも本書の詩のような「怪獣詩」が登場するとは面白い現象であると思う。
 わたしも『魔法少女まどか☆マギカ』を短歌にして「まどマギ短歌」なるものを制作したことがあるが、非常に楽しい仕事であったことが記憶に残っている。
 そのように現代のサブカルチャーと伝統的な文藝作品である「詩&短歌」が融合し始めているのが現代という時代なのである。
 なかなか面白い時代になってきたな、わたしはひそかにほくそ笑んでいる。
 わたしも近年中にまたサブカル短歌の執筆を再開しようと思っている。
 本書『ジャミラ祈念日』の作者である松本氏にも今後は頑張ってほしいものである。

 さて本書はアマゾンでは10000円以上の古書価がついているが、ブックオフでは100円で拾える本である。
 どうしても欲しい方は根気でブックオフ巡りをして欲しい。
 ブックオフで本書を掘り出したわたしが言うのだから間違いない。本書はブックオフで発見できる本である。

 さて最後の「締め」として「271号」(ダダ)の最終部分を引用して本稿を締めさせていただく。

 「任務から
 解放された君は
 もう271号ではない
 
 ダダ」

 

(2017年9月10日&黒猫館&黒猫館館長)