『スレイブ通信(創刊号)』
三和出版発行。季刊雑誌。1986年4月15日発行(初版)。外装なし完本。定価1500円。カラーページ多数。
内容
「プロローグ」
「創刊のことば=排他性を排す」
「春川ナミオ●ある春の日の憧憬」
「スレイブ・アンケート●私がマゾヒズムに目覚めた時」
「法廷資料●加被虐性性行為による障害致死事件裁判二判例」
「睦月影郎●狂崇者の系譜」
「会員レポート●南国土佐女帝国マゾッホ旅行」
「たつみひろし●踏み責め双紙」
「モノクロフォト=垂涎」
「小説=本格派スレイブ 鬼山狗策●残酷ドミナ」
他。
1980年代中盤から勃興して1990年代まで続いて、この時代のSMシーンを大胆にリードした本格派男性マゾヒズム雑誌である『スレイブ通信』の創刊号が本書である。
まずわたしたち読者はカバーの神崎春子(レディースコミックの大御所)の華麗で耽美的なカバーアートに惹きつけられてしまう。
それほどこのカバーアートは当時の「SM雑誌」にしては破格で大胆なものであった。
さて本書の成立過程はいささか複雑であるので、ここではかいつまんで説明する。
まずアマチュアのマゾヒストたちの会「スレイブの会」(1975年発足)の会報「スレイブ報告」が色々な問題で行き詰っていた時期に、三和出版のSM雑誌『SMソドム』別冊の『花奴隷』(現在では2号まで確認されている)の編集部から「スレイブ報告」を商業ペースで出版してみないか?という話が持ち込まれたらしい。
「スレイブの会」ではこれを受け入れて「スレイブ報告」と『花奴隷』のハイブリット雑誌として『スレイブ通信』が誕生した。
そのような完全な商業雑誌ではない、同人誌的な側面を持つ雑誌故にこの『スレイブ通信』の初期(1980年代)は並々ならぬ熱気に溢れた雑誌であったと記憶している。
1990年代に入るとだんだんそのような同人誌的な側面がそぎ落とされて、完全な商業ペースの雑誌に変化していった感があるこの雑誌であるが、初期の号に於けるマゾヒストたちの熱気溢れる誌面造りは刮目に値するものがあった。
この創刊号はそんな初期『スレイブ通信』でもとりわけ「濃い」内容の雑誌であるといえる。
春川ナミオのマゾアートがカラーで巻頭を飾り、「プロローグ」では「少誌はポルノ雑誌ではなく、限られた嗜好者を対象としたフィジカルでサイコロジカルな研究書である。」という極めて大胆な発言には驚かされる。
まさに本誌はそのような極めて「崇高な理念」を持って発刊された雑誌であることを、ありありとわたしたち読者は感じてしまうのである。
そんな「理念」にふさわしく執筆人もマゾ漫画家&たつみひろしやマゾ派官能作家&睦月影郎などの参入で非常に豪華な雑誌に仕上がっている。
もちろん特筆すべきはそのような「プロ」の参加もさることながら、「会員ナンバー◎◎◎◎」と呼ばれる無数の「スレイブの会」の会員たちの実体験に基づいた迫真のリポートが実話ならではの迫力を持って、わたしたち読者に迫ってくるのである。
男性マゾヒズムの文化がまだまだ「隠花植物」として扱われていた時期の「毒」と「蜜」を併せ持つ、真のマニア向け雑誌に仕上がっていると評価してよかろう。
さてこの創刊号はなかなかに入手しがたいが、アダルト系古書店に行けば安く入手することも可能。
このような理念&内容ともに本格的な古典的雑誌を、わたしたち現代の読者が読むことによって、現代の男性マゾヒズム文化に更なる隆盛の時代が来ることが筆者の切実な願いである。
(影姫&黒猫館&黒猫館館長)