『魂の飛ぶ男』
朝倉稔著。パトリア書店発行。初版1959年12月15日。カバー・元パラ完本。定価280円。
収録作品
「魂の飛ぶ男」
「花の幻」
「夢の跡」
「青い罪壇」
「白葬」
「エピカイン国」
本書は極めて特異な書物である。「朝倉稔」という全く無名の作者の著作ながら、1983年発行の『季刊 幻想文学 第三号 幻想純文学』で本書がいきなり取り上げられたことが本書の再評価の発端となった。
つまり本書は初版発行の1959年から約20年間も埋もれていたことになる。
『季刊 幻想文学』の編集者が何故に本書のような埋もれた書物を取り上げたのか今となっては全く謎に包まれている。
それからさらに約30年後の2007年、北原尚彦著『SF奇書天外』(東京創元社)で再び本書が取り上げられる。
ここで本書は一気に知名度を増したように思われる。
そして昨今のインターネット時代において、さらにじわじわと本書のウワサは広まってゆく。一体本書はなぜそれほどまでに人々を引きつけるのであろうか?
さて本書に収められた六編の短編は著者・朝倉稔による一人称の告白体で綴られている。そのため「幻想小説を読む」というよりは「精神異常者の告白」を聞かされているような奇妙な錯覚に陥るのだ。
そういう意味で本書は極めて不気味であり、類書の幻想小説とはかなり趣きが異なっている。
さて表題作の「魂が飛ぶ男」は文字どおり自分の魂が他者に憑依する作品であり、他の短編でも「魂」そして「死」の問題が主たるテーマにされている。
さて本書の出版社の「パトリア書店」についても全く不明。「書肆パトリア」という出版社もあるらしいのだが、「パトリア書店」と関係があるのか、これも不明である。
わたしは「パトリア書店」発行の書物をすべて調査したが、そのすべてに「帯」はついていない。
それゆえわたしは本書を「帯なし完本」と推測する。
先述したとおり本書は不気味な勢いでじわじわ知名度を増している。
そのため今後古書価が急騰する可能性は大いにある。
コレクターの諸君はまだ古書価がほとんどついていない現在のうちに本書を入手しておくのが賢明であるだろう。
(黒猫館&黒猫館館長)