【中東紀行 最終回】回想
「お飲み物いかがですかー」
スチュワーデスがワゴンを引いてオレンジジュースを配っている。わたしは一杯もらった。
オレンジジュースをゴクリと飲みながら飛行機の窓からゆっくりと外を見た。
場所は秋田上空。時間は夕暮れ時。
「おうちに帰るまでが遠足です。」・・・ということは、いよいよトルコ旅行もこれで本当に終わりであるな。
わたしはオレンジジュースを飲み終わるとゆっくりと周りを見渡す。
東京への出張帰りのサラリーマンが居眠りしている。
女子学生らしき若い女性が本を読んでいる。
日本人スチュワーデスがワゴンを運んでゆく。・・・
それらの光景はもう紛れもない「日常」であった。
わたしはゆっくりと目蓋を閉じる。
目蓋の裏に走馬灯が走り出す。
イスタンブールでブルーモスクに圧倒されているわたしがいる。
カッパドキアの地下都市で迷宮を彷徨っているわたしがいる。
パムッカレの足湯温泉で癒されているわたしがいる。
エフェソスのコロッセオで合唱しているわたしがいる。
わたしはそれらの大切な記憶をアルバムを閉じるように胸の中に封印した。
明日からは正真正銘の「日常」が帰ってくる。
「日常」を一歩一歩歩いてゆくこと。
しっかりと地に足をつけて。
安易な感傷に流されることもなく。
そうすればまたいつの日か新たな旅はまた始まってゆくのだろう。
・・・しかしそれはまた別のお話。
高度を下げ始める秋田行き国内線。
もう窓から秋田空港の滑走路が見える。
・・・今、「旅」は終焉する。
「出会い」「友情」「助け合い」「別れ」・・・今回の旅では本当に色々なことを学んだ。わたしはこれからじっくりとこれらの用語の意味を、辞書で引いて確認することだろう。
今、国内線飛行機がガガガ・・・と音を立てて着陸する。
わたしはゆっくりと席を立つ。
乗客たちも立ち上がり始める。
友よ。今回の旅はここで終わる。願わくば貴方がたもいずれ素敵な旅へと出発することができるように。
ありがとう。
今回の旅行で関わったすべての方々。
そしてこの旅行記を読んでくれたすべての方々。
またいつの日にか地球のどこかで再会できることを。
合掌。
(写真は夕暮れ時の秋田上空)
(黒猫館&黒猫館館長)