【中東紀行 78】未来への手紙 

 

 

 薄暗闇の中でどこからともなく、無数のスチュワーデスが現れる。
 やがて彼女たちはテキパキとした動作で機内の窓のスライドをドンドン開けてゆく。当然のことであるが窓の外は快晴。(航空機は雲の上を飛んでいる。)

 窓から差し込む一点の曇りもない光を全身に浴びながら機内食の時間が始まった。斎藤さんからドネルケバブのハンバーガーをおごってもらってから実に10時間近く、これでは空腹になるのも無理はない。

 わたしは椅子を起こすと、前面の小型TVのスイッチを入れた。TVに映し出される現在位置。現在、トルコ航空は東南アジア上空を飛んでいるらしい。(今回のトルコ→日本のフライトはインド洋経由の便。ヨーロッパと日本を往復する場合はロシア経由の便が使われる。)

 やがてスチュワーデスが機内食を運んでくる。
 「オハヨウゴザイマス〜!!」とさわやかな大声を出しながら機内食を配るスチュワーデスたち。彼女たちはみな一様に美人である。カッパドキアでもイスラム美人のことに触れたが、どういうわけかイスラム圏には美男・美女が多いのだ。

 機内食をもぐもぐと食べ始める。日本人の味覚に合わせたのか魚料理である。といっても日本の魚料理とは違ってオリーブ油をたっぷり使って焼いたパリパリした食感の魚料理である。

 「あと3〜4時間で成田空港に到着か。」わたしはしみじみと思った。まこと旅は人生に似ている。旅の途中は夢中になって時間を忘れているが、終わってみれば、それはあまりに儚い夢。

 やがて機内食を食べ終わるとスチュワーデスが皿を運んでゆく。代わりにオレンジジュースの紙コップが置かれた。オレンジジュースを飲みながら、わたしは旅の終わりを感じ取っていた。
 「こうして、成田空港に到着して新宿行きのバスに乗る。新宿に着いたら今度は羽田空港を目指す。そして羽田から秋田へ飛ぶ。秋田へ到着したら、それで終わりだ。また単調な生活が帰ってくる。」
 わたしはなんだか憂鬱になってきた。
 それは旅の終わりのメランコリー。

 「このままでは鬱状態になってしまう。」そう感じ取ったわたしはとにかく何か作業することにした。じっと何もしないで居ることほど、鬱を呼びやすいものはない。
 わたしは名刺を作ることにした。斎藤さん、今野さん、長門夫妻、そして森さん。今回お世話になったすべての人々に自分の名前を知ってもらうのだ。そうすれば少なくても来年の元旦に年賀状は来るだろう。そして年賀状のやり取りからまた新たな物語が始まってゆく。

 ・・・未来への手紙。あるいは希望のタイムカプセル。
 カッパドキアの絵葉書の裏を使って丁寧に自分の名前と住所を書いてゆく。丁寧に心をこめてわたしは四枚の名刺を作成した。
 あとは成田でこの名刺を四人に手渡せば良い。

 「旅は道連れ、世は情け」・・・旅行がキッカケとなって結婚するカップルも多いという。わたしは斎藤さんと結婚することはできないが、少なくても今後の友だちになることはできる。

 こうして未来への希望を一杯につめた四枚の名刺が出来上がったころ、トルコ航空はフィリピン上空。
 あと3時間程度で成田へ到着である。



(デジカメの容量が満杯になったので今回も写真はなし)

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)