【中東紀行 77】一期の夢
カツン・・・カツン・・・
わたしの靴音だけが暗闇に響く。
「ここはどこだろう?」わたしは周囲を見回す。暗闇の中に凸凹した岩がうっすらと見えてくる。
「ここはカッパドキアの地下都市!?」わたしは驚愕した。
馬鹿な。
トルコ旅行はもう終わったはずだ。なぜわたしがカッパドキアに・・・
しかもわたしがもし本当にカッパドキアの地下都市の奥地にいるならそう簡単には出られないだろう。
なんといっても地下15階の迷宮である。
ここで迷子になったらミイラになるしかないぞ・・・
「そ、それは嫌だ!ミイラになんかなりたくない!!」わたしはひたすらに洞窟を駆けてゆく。しかし闇はますます深まるばかり。・・・
※ ※
「ハッ!」
わたしは気づいた。しかし周りはなおも暗闇。
しかし今度の暗闇はカッパドキアの地下都市の深い深い闇ではない。ぼんやりと明かりが見える。
「機内か・・・」わたしは夢を見ていたのだ。そして今度目覚めたのはトルコ航空機機内。
エコノミークラスの窮屈な姿勢で寝たのが良くなかったのだ。浅い眠りの時に人はしばしば悪夢を見る。
しかし今、何時だろう・・・?
時差があるので腕時計は役に立たない。
もしかしたらこの閉じた窓の外は白昼かも知れない。
わたしはなおも続く不思議な酩酊感に包まれながらゆっくりと身体を起こした。隣では知らない日本人のおばさんがイビキをかいている。
薄暗い闇のなかでらんらんと目を輝かすわたし。
・・・それにしてもなんというリアルな夢だったんだ。冷や汗が出たぞ。
それだけカッパドキアの地下都市の印象がわたしにとって強烈だったということだろう。
しかしこの強烈な印象も時間が経つにしたがって薄らいでゆくことだろう。・・・まあ仕方ないな。
この時わたしの中でなにかが弾(はじ)けた。
「仕方がない?・・・そんなはずはない。イスタンブールやカッパドキアの記憶をこのまま一期の夢として消滅させたくはない。わたしにとって今回のトルコ旅行は一生の思い出にするに値する強烈な記憶のはずだ。」
「ならば、ならばだ。わたしは今回のトルコ旅行の記憶を文字にして脳裏に刻みつけよう。紙に書くのではすぐ飽きてしまう。やはりネットだ。それもHPにして少しづつ書いてゆくというのはどうだろう・・・?少しづつならなんとか書けそうな気がする。」
こうしてわたしの頭の内部で旅行後に書く「トルコ旅行記」の構想が形成されてゆく。この「トルコ旅行記」が今、現在執筆している「中東紀行」の原型だったのである。
・・・まずHPで発表する。それが完結したらワープロで文字に起こす。その紙の束を知り合いの古書店主や骨董品屋の主人に読んでもらう。もし好評だったら旅行記の自費出版も考える。・・・
トルコ航空機の内部の暗闇の中でわたしは「中東紀行」執筆の覚悟を決めた。
「書けるか、書けないか、未知数だが帰国したらとにかくやってみよう!!」
帰国後の新たな決意を胸に刻んだ今、機内の長い夜が明ける。
(デジカメの容量がオーバーしたのでもう写真はなし)
(黒猫館&黒猫館館長)