【中東紀行 74】河野さん、異変 

 

 斉藤さん、今野さん、わたしの三人は空港のレストランから出た。フライトまであと2時間。とうとうトルコにいられる時間もあと2時間になってしまった。

 斉藤さんが言う。
 「集合時間まであと1時間、どうしましょう?」
 今野さんが応答する。
 「わたしもう疲れたわ。」
 わたしが同調する。
 「そ、そのとおりであります。・・・はい。」

 ということで三人は少々早いが集合場所に向かうことにした。エレベーターを登ってテクテク歩く。なんだか3人ともトルコのおみやげの人形のようによろよろしている。それでもテクテク歩く歩く。すると集合場所である空港ロビーが見えてきた。

 すると添乗員の森さんを筆頭に何人かの人がもうすでに集まっている。
 かれらはなにか深刻に話し合っている。

 わたしはおばさんのひとりに尋ねてみた。「なにかあったんですか?」
 おばさん「ちょっと、大変よ、河野さん倒れたんだって。」
 
 「ええッ!」とわたしは驚嘆した。フライトまであとたった一時間半、今このタイミングでぶっ倒れるとは確かに大変なことだ。まさか河野さんひとりをトルコに残して、ツアー一行が帰国するわけにもいくまい。
 さあ、どうしたものか?・・・

 詳しく聞いてみると河野さんはスーパーマーケットでいきなり脱水症状を起こしてしゃがみこんでしまい、現在は空港の医務室に運ばれているのだという。
 「そうか、そうだったのか。・・・」わたしはつくづく思った。恐らく彼女は昨日の夜で燃え尽きたのであろう。
 若い情熱を燃やし尽くして倒れた華麗な女(ひと)、河野さん。・・・しかし現在はそんな浪漫的なことを考えている場合ではない。

 森さんが携帯電話でなにか怒鳴っている。
 森さんだって必死なのだ。添乗員として森さんはこの不測の事態をなんとか乗り切らなくてはならないのだから。

 ツアー一行の行く手に暗雲が立ち込めてきた。
 はたしてツアー一行は無事に日本に帰られるのであろうか?・・・
 フライトまであと1時間15分。それでも時計の秒針は容赦なく時を刻んでゆく。


(もうデジカメの容量がオーバーしたので写真はなし)

 (黒猫館&黒猫館館長)