異次元の色彩

 

 

(↑トレヴァー・ブラウンのイラスト)

 

 白が怖い。

 なぜ白が怖いのか?と問われると即答できる。
 白は病院の色であるからだ。

 この病院の白は社会のあちこちに散らばっている。

 それは時にはトレヴァー・ブラウンのメディカルアートの白であろう。また時には人気アニメ作品「ヱヴァンゲリヲン」の登場キャラクター「綾波レイ」の包帯の白であろう。そしてまたある時はドイツ製カルト映画「es」に登場する刑務所の白なのであろう。

 次の瞬間、ブシュ!と真っ赤な血糊がはじける予兆を漂わせながら、今日も病院には「白」が蔓延している。



    ※             ※


 「神隠し」という現象がある。
 いつも「いる」人間が突然「いなくなる」現象だ。もちろんこれは「死ぬ」ことを意味しない。突然、死体も残さずに人間が消失するのだ。

 ごく少数であるがこの神隠しから奇跡的に生還した人間がいるらしい。
 彼らの話によると「ある時、突然、真っ白い空間に引き込まれた」らしいのである。

 この真っ白い空間には上も下も右も左もない。
 あるのは延々と続く「白」だけだ。
 
 いくら歩いても「白」。
 上に登ろうとしても「白」。
 下へ降りようとしても「白」。

 そんな無限に続く白の世界で永久に生き続ける。これがまさに「神隠し」という現象の本質らしいのである。

 この白い空間の中では自分の身体さえ見えないらしい。だから当然自殺することもできない。永遠に白い空間を漂い続けるのだ。

 もし地獄というものがあるとしたら、この「白い空間」こそ地獄ではないのか。・・・
 わたしは身震いする。永遠に続く白い地獄に。


 ほら、もしかしたら白い空間への入り口は君のすぐ近くにあるのかも知れないぞ。・・・
 道路の電信柱の横、会社のトイレのドアの向こう、そしてもしかしたら今、インターネットをいじっている君の後ろに。


    ※             ※


 世の中から「夜の闇」が失われたから、怖いものが無くなった、などという人がいる。しかし実はそうではない。現代では「闇は白い」のだ。白昼に闇はポッカリと口を開けて餌食となる人間を待っている。


 この「白い闇」があちこちに蔓延している現代社会で今日もわたしは震えている。いつか、どこかで白い闇のなかへ「ズルッ!」と引き込まれるのではないのかと。

 

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)