【中東紀行 72】情けは人のためならず
小型客船がしゅぽぽぽぽ・・・と哀しげな音をたてて港に停泊する。ここからバスで約1時間でアタチュルク空港に到着する。
わたしは疲れと憔悴に足をふらつかせながら、乗り継ぎのバスに乗り込んだ。ツアー一行もみな憔悴しきった顔をしている。
無理はない。無理は・・・約10日間にわたるトルコ旅行がもう終わろうとしてるんだからな。ツアー一行の連中は旅の終わりの憂いと10日間にわたる旅の疲れに身を打ち震わせているに違いない・・・
「ふふ・・・」わたしは力なく微笑んだ。
バスがアタチュルク空港に向かって走り出す。トルコの風景もついにこれが見納めか。・・・ボスボラス海峡沿岸から平野部に入り、ひたすらバスは走り続ける。トルコ最後の風景を目に焼き付けるべくわたしは最後の力を振り絞って目を見開いた。
「わたしはいつの日か、もう一度トルコを訪れるだろう。・・・アイ・シャル・リターン・・・」
そんなことを考えているとバスが止まった。
アタチュルク空港に到着したのだ。バスからふらふら降りるツアー一行。ツアー一行はまるで生気のないゾンビのように空港内部に向かって歩いてゆく。
そして空港到着。森さんが叫ぶ。
「はーィ!!みなさん、相当お疲れと思いますがフライトまであと3時間あります!その間に空港のスーパーマーケットでお買い物をお済ましください!!」
ツアー一行が一旦解散する。
わたしは斉藤さん今野さんと一緒にスーパーマーケットに向かって歩き出した。しかし時間は12時、お昼の時間だ。フライトは15時。お昼を済まさなくてはならない。
しかしわたしは手持ちのトルコリラはもう全部使いきっている。わたしは昼食を食べないつもりであった。いくらトルコでもお金がなくては物を食べることはできない。
その時、斉藤さんが言った。
「貴方、昼ごはんわたしに奢らせなさい。カッパドキアの洞窟ホテルでの借りをキチンと返してから日本に帰りたいから。」
涙が溢れた。
まこと情けは人のためではないのだ。回り回ってじぶんに帰ってくることなのだ。・・・わたしは塩辛い涙の味と共にこの教訓を奥歯で噛み締めていた。
斉藤さんと今野さんとわたしの三人は最後のトルコ料理を食すべくレストランへ入ってゆく。・・・
(写真は最後の最後に見たトルコの風景)
(黒猫館&黒猫館館長)