【中東紀行 53】エーゲ海に沈む夕日 

 

 

 バスが市街地に入る。

 ごとごとと車体を揺らしながらバスが細い路地に入り込んでゆく。ここが今夜の宿泊地・イズミールである。イズミールはイスタンブール・アンカラに続くトルコ第三の都市である。

 バスの横からエーゲ海がうかがえる。
 港にドイツからの豪華客船が停泊している。これは凄い。日本の豪華客船など比べ物にならない豪華さである。世界にはケタ違いに凄い大金持ちというものが存在しているものだ。

 やがてバスが止まるとどやどやとツアー一行が降り始める。今夜の夕食はエーゲ海直産のシーフードを食べさせるレストランである。

 わたしは例によって斎藤さんの隣の席に腰を下ろした。
 やがて夕食が運ばれてくる。魚料理である。


 


 そういえば日本を出てから約一週間、魚にありつけた日は無かった。本日の夕食ではなつかしい味にありつけるというわけだ。

 やがておずおずと夕食が始まる。
 魚を一口、口に運ぶ。・・・美味い。
 淡白にしてコクがある。オリーブ油をたっぷり使用して焼いた魚は日本の魚とは一味違う味なのであった。

 その時、おおッ!とツアー一行がざわめいた。
 エーゲ海に今まさに夕日が沈もうとしている。

 その夕日の言葉では形容できない美しさよ。
 しゃ・・・写真・・・とわたしはデジカメに手を伸ばした。
 しかし・・・

 「写真に撮りたいけどまさか食事中に外に写真を撮りにゆくわけにはいかないものな。」ツアー一行のおじさんが言った。みんなうなずいている。
 ヨーロッパでは日本以上に食事のマナーが厳しい。
 わたしがここで魚料理をホッポリだして外に写真を撮りに行ったらツアー一行の恥さらしになってしまう。
 残念ながら写真は我慢せざるを得ない。読者のみなさんにはこのエーゲ海の夕日の美しさを各自想像してもらうしかないだろう。

 やがて食事が終わる。
 夕日が沈んだ後のエーゲ海はもう真っ暗である。

 ツアー一行はレストランから出るとしばらくエーゲ海沿岸の公園で遊び戯れた。
 明日はもうイスタンブールに帰還する。
 旅の終わりの旅愁を味わいながら、エーゲ海からの風が頬にあたる。
 四月の風はまだ冷たい。
 しかしトルコの風に当たることができるのもあと2日。

 わたしはエーゲ海からの風の記憶を脳裏にしっかり刻印するとホテルへ向かうバスへ向かった。

 帰国まであと2日。
 ほぼトルコを一周したこの大旅行は無事に大団円を迎えられるのであろうか・・・?
 イズミールの夜は更けてゆく。



 



 『【中東紀行】第三部「エフェソス流転編=完結。』



(写真上はシーフードレストランの魚料理)
(写真下はエーゲ海沿岸の夜の公園)

 

(黒猫館&黒猫館館長)