【中東紀行 50】娼館への扉 

 

 

 

 エフェソスのメインストリートからケルスス図書館にぶつかるとT字路に突き当たる。そのT字路を右に行くと、ハーバー・ストリート(港通り)へ出る。


 


 ようやく姿を現したオキアイさんを先頭にツアー一行がぞろぞろ固まって歩いてゆく。

 オキアイさんが重々しく口を開く。
 「みなさん・・・世界最古の職業はなんでしょう・・・?」
 誰も答えられない。斎藤さんもわたしもキョトンとしている。
 オキアイさん「わからないですか。そうかわからない。では答えましょう・・・それは売春です。」

 ツアー一行が一瞬「びくッ!」と微かに震えた。

 オキアイさん「ここエフェソスでは公娼制度が整備されておりました。みなさんの右側に今は残っていないですが娼婦の館が沢山ありました。娼婦の館の入り口には役人が立っていて客から税金を取っていました。」
 ・・・売春防止法が施行されている現代の日本では考えられない話である。やはり古代の人々は性に対してもおおらかであったのだろうか?

 オキアイさん「そしてみなさん、左をごらんください。大理石の板がたくさんあるでしょう。その板をよくご覧ください。」
 大理石の板のまわりに人だかりができる。
 わたしも人ごみを押し分けて大理石の板を見た。なにやら足の跡のようなものが彫られている。


 


 オキアイさん「この足は娼婦の足を模(かたど)ったものです。この足の意味はふたつあります。ひとつは「左へ行け(娼館へ入れ)」という客引きの意味、そしてもうひとつは「この足より小さな足の人間、要するに子供は入ってきてはならない」という未成年者に対する警告の意味です。」

 なるほど〜・・・
 やはり古代といえども子供は入れないわけだな。ここら辺は現代と共通している。・・・
 とわたしが納得しているとさらにオキアイさんの話は続く。

 オキアイさん「足の上にハートマークがあります。そのハートマークの中には点々が彫られておりますね。この点々は娼婦が相手にした客の数、つまり娼婦の「ランク」を示したものです。」

 娼婦にもランクがあったのか。わたしはびっくりした。
 現代でいえばソープランドの格安店と高級店の違いのようなものか。・・・

 ツアー一行はじっと驚いたような顔で大理石の板を見入っている。まるで教科書には絶対に載ってはいない古代世界の裏面史を初めて教えられてびっくりしたかのように。・・・
 

(写真左はハーバーストリート)
(写真右は娼婦の館への案内板)

 

 (黒猫館&黒猫館館長)