【中東紀行 49】ケルスス図書館の遺影

 

 

 

  中コロッセオから再びメインストリートに戻るわたしと斉藤さん。もう入り口からかなりの距離を歩いている。わたしはまたもや足が痛くなってきた。しかし斎藤さんは全く元気である。メインストリートをすたすた歩いてゆく。
 「この人、本当に70歳過ぎているのか!?」と疑いつつ、わたしは斎藤さんの後を追った。

 メインストリートがようやくT字路にぶつかる時、その物件はいきなり出現した。ケルスス図書館の遺跡である。



 



 ツアー一行がケルスス図書館の前に集まっている。
 オキアイさんの声がイヤホンガイドから聞こえてきた。「みなさん、このケルスス図書館はアレキサンドリアの大図書館、ベルガマの大図書館と共に「世界三大図書館」と並び称されて、全盛期には一万二千冊の蔵書を誇りました。」
 古代世界において一万二千冊の蔵書とは驚異的だ。しかしその蔵書は現在では一冊も残っていないという。いったいどんな題名の本が収蔵されていたのだろうか?・・・古書マニヤのわたしとしては非常に興味が広がる。

 ケルスス図書館で現在でも残っているのは玄関だけ、しかしその玄関だけでも非常に立派な建築物であったことは容易に想像できる。
 玄関正面の壁には知恵、運命、学問、美徳の4つの意味をそれぞれ象徴する女性像が置かれている。
 古代の人々にとっても現代の人々にとっても「本」は人間にとって重要なものであるのだな・・・・わたしはじぶんの本に対する認識を新たにさせられた。

 「わたくしが死んだらわたくしの蔵書は一体どうなるのだろう」とある有名古書コレクターが残した狂句が現在の日本に残っている。
 「蔵書」・・・それはあまりに儚(はかな)い。わたしはケルスス図書館の遺影を観て、わたしが若い時分から死に物狂いで蒐集したじぶんの古書コレクションの行く末に思いを重ねた。
 
 ツアー一行はすでに右に向かって歩き出している。
 わたしと斎藤さんはツアー一行の末尾に向かって歩き出した。

 (写真はケルスス図書館玄関正面)

 

 

 (黒猫館&黒猫館館長)