【中東紀行 26】リッチな方々との対話 

 

「貴方、ちょっとお待ちなさいよ。」

 斎藤さんに呼び止められた瞬間、わたしはビクッ!と身体を震わせた。「なにかヤバイことでもあったのか。・・・」

 斎藤さん「ちょっと貴方、このドアの鍵が開かないのよ。若いんだから開けてくれる?」

 なんだ。そういうことか。お安い御用。
 わたしはクルクルッ!と鍵を回した。外国のホテルの鍵の開け方にはコツがあるのだ。
 このコツに習熟しているわたしはたちまち鍵を開けた。

 斎藤さん「あらッ!不思議ねえ・・・でも貴方やっぱり凄いわ。」
 いや、別にこの程度のことは凄くないと思うのだが。。。
 斎藤さんとのこのやり取りがあとあと重要な役割を持っていることにその時期のわたしは全く気づいていなかった。



        ※             ※ 



 荷物を自室に置き、洞窟ホテルのレストランに急ぐ。

  

 食事はもう始まっていた。
 添乗員の森さんから明日の日程の説明がある。

 「ハーィ!みなさん、明日は一日全部カッパドキア周遊です!かなり歩くと思いますので靴には注意してください!それではごゆっくり。」

 わたしは椅子に座り、食事を食べ始めた。
 テーブルのムコウ側には長門夫妻というちょっと見たかんじでは50代後半の夫婦が座っている。

 長門夫人が口を開いた。「トルコステキねえ・・・」
 長門主人が応答する。「ああ・・いいところだねえ・・・」
 長門夫人「でもエジプトのほうがもっと凄かったわよ。・・・」

 と長門夫妻は延々と自分たちの海外旅行遍歴について語りだした。それによると彼らは一年に3回は世界中を旅行しているらしい。

 「なるほど〜・・・」とわたしは思った。これがウワサのリッチな方々、通称「経済的自由人」というやつだな・・・とひそかにわたしは夫妻の言動に耳を傾けた。

 夫妻の話はエジプトの砂嵐からベルギーの食事の美味しさへ、そして世界一周旅行の話、ついにはユーロと円の関係や財テクの話にまで及び始めた。

 わたしは必死で耳を傾けた。「よく聞いておけ!こんなリッチな方々と話ができるチャンスなんてめったにないぞ!盗め!盗み取れ!彼らの知識を!!」

 話が下火になってきたころ、わたしは夫妻に聞いてみた。
 わたし「あの、ユーロは今後どうでしょうかねえ・・・?」
 夫妻「ユーロは昔ほどではなくなったから日本円に換金しておいたほうがいいかもね。。。」

 話は飛ぶがわたしはこのトルコ旅行終了後、成田空港の両替所で残ったユーロをすべて日本円に換金してもらった。
 もしユーロをそのまま持っていたら。。。現在のギリシャの経済危機のことを考えるとぞッとする。

 食事終了。
 長門夫妻も他のツアーのメンバーもどやどやと自室へ帰ってゆく。

 わたしはひとり決心していた。
 「み・て・い・ろ・・・俺だって今にリッチになってやる、なってやるぜ!・・・」

 ネフシェヒルの夜は一人の前途ある青年の固い決意と共に更けてゆく・・・

  

(写真一枚目は洞窟ホテルレストラン)
(写真二枚目は洞窟ホテル自室)

 

(黒猫館&黒猫館館長)