【中東紀行 18】トルコの徴兵制度 

 

 

「バタン!」

 ツアー日程二日目。わたしは疲れた足取りでバスに乗り込んだ。バスの中を見るとツアー一行はみな疲れた顔をしている。
 わたしはバスの一番後ろの席に陣取った。一番後ろの席はなぜか落ち着くのだ。やがてバスが剛速球で走り出す。

 添乗員の森さんから本日の予定を聞く。
 「ハーィ!みなさん、よく眠られましたでしょうか!?本日はこれからアタチュルク国際空港までバスで移動して、飛行機でアンカラに向かいます!空港までの時間は2時間強です。それではみなさんごゆっくり!」
 2時間強といえば新宿〜成田間以上の距離である。わたしはぐったりソファーに身を沈めた。

 とここでガイドのオキアイさん登場。

 オキアイさん「みなさん、おはようございます。空港到着までの間、日本人のみなさんにはあまり馴染みのない話をさせていただきます。それはトルコの徴兵制度についてです。」

 「徴兵制度」という言葉が出たとたんツアー一行がビクッ!とかすかに身体を震わせた気がした。

 「トルコでは国民皆兵性です。20歳になったら誰でも兵役に一年間就かなくてはいけません。ヨーロッパのような良心的徴兵拒否も認められていません。もし兵役拒否を行った人がいたらたちまち投獄されます。」

 なるほど〜。。。
 ヨーロッパ諸国では最近、良心的徴兵拒否(兵役の代わりに社会貢献(ボランティア)を行って兵役に代えること)はむしろ推奨される傾向にある。しかしトルコでそれをやったらたちまち牢獄行きというわけだ。トルコのEU加盟が進まない理由はここら辺の理由もありそうである。

 オキアイさん「わたしは日本に留学した関係で30歳の時、兵役に就きました。しかし30歳ではもう兵隊として使い物になりません。だからもっぱら軍隊の雑用をやらされていました。」

 軍隊で雑用をやらされるとはそれはそれで厳しい気がするな。う〜む。。。

 オキアイさん「わたしはトルコ人が兵役に就いて自分の国を守ることは栄誉なことだと思っています。しかし日本人のみなさんにこの考えを押し付ける気持ちは全くありません。トルコ人にはトルコ人の考えが、日本人には日本人の考えがあります。」

 確かに周りをイランやイラクのような国に囲まれていれば軍隊を持つことは絶対必要なことであろう。
 日本に徴兵制度が存在しないことはやはり幸福なことであるのかもしれないな。。。

 
 バス内のツアー一行はなにやら厳粛な空気に包まれてしまった。
 アタチュルク国際空港まであと一時間。

 バスはひたすら剛速球で走ってゆくのであった。

 

(黒猫館&黒猫館館長)