【中東紀行 16】シシカバブーとの邂逅
「パカッ!」
とわたしは円錐型の蓋を開いた。
「むむ〜・・・」
わたしは思わず唸り声をあげた。
皿の大きさに比べて肉の量が少ない。・・・
これだったら日本の焼き鳥屋のほうがどっさり食べられるのではないか。
しかし大人の食事は量より質である。
わたしはシシカバブーをフォークで刺して一口食べてみた。
「・・・」
不思議な味である。これまで食べたどの肉とも違う。羊の肉というのはこんな味だったのであろうか。まさにミラクルな味なのであった。
無言で食べていたおばさんたちも除除に口を開き始めた。
おばさんA「なんだか変わった味ねえ・・・」
さよう、人間はまったく未知の食べ物に対しては「美味い・まずい」の判断ができなくなる。レストランがおばさんたちのおしゃべりでざわざわし始めた。
わたしは二口目を食べてみた。
やはり変わった味である。強いて例えれば日本の魚の缶詰の味に近いであろうか。しかし別にまずいというわけではない。
味覚がシシカバブーの味に戸惑っているのだ。
三口目・四口目でなんとかシシカバブーの良さがわかってきた気がする。しかしもうその頃にはシシカバブーはほとんど残っていないのであった。
日本人が海外で戸惑う現象がまさにこれである。
要するに「日本人向け」の味付けではないのだ。だからいきなり未知の食べ物を出された日本人はみな不思議な顔をする。頑固な人だったら「まずい!」と怒り出す人もいるかもしれない。
しかしせっかく海外に来たのだから未知との遭遇を味わうのが正しいというものではないか。日本で日本人向けの料理屋で食べているのではないのだから。
シシカバブーとの邂逅と共にトルコ旅行一日目の夜が更けてゆく。
イスタンブールの昼は長い。
夜8時だというのにまだ明るいのだ。
明日からは神秘の洞窟都市・カッパドキアに向けてトルコ東方へ出発する。
わたしは兜の緒を引き締めるように白ワインをグビリと飲んだ。
(【中東紀行】第一部イスタンブール出発編完。)
(写真はシシカバブー。)
(黒猫館&黒猫館館長)