【中東紀行 14】これがハーレムだ(下) 

 

ぎぎー・・・と音がしたわけではないが今まさにハーレムへの扉が開かれた。
 ひたひた・・・薄暗い廊下をあるくツアー一向。オキアイさんが重々しく口を開く。

 「ハーレムに入れる人間はスルタンとその妻である女性たちと女性を監視する宦官だけでした・・・」

 なんと驚くなかれ、全盛期のハーレムでは女性の数は1000人を超えていたという。1000人の女性をたったひとりで相手するスルタンってどんなに精力絶倫なの!?と思ってしまう。

 ハーレムの部屋数は400部屋以上、現在観光客に公開されているのはその一部にすぎない。

 やがてツアー一行は大広間へ出た。
 女性たちが常駐していた小部屋への入り口が無数に開いている。そのありさまはまさに「閨房」と呼ぶにふさわしい。


  


 オキアイさんの話は続く。

 「ハーレムでは狭い女性社会のため、嫉妬や揉め事が多く、しかも一旦揉め事を起こしてしまった女性はたちまち宦官に捕まって生きたまま袋に詰められてボスポラス海峡に沈めれたのです。・・・」

 なんという華やかなハーレムの影にそびえる凄惨な歴史!
 日本の江戸時代の「女大学」以上に厳しい女の世界!

 わたしはひょいと「閨房」の中を覗いてみてギョ!とした。
 そこにはなんとオスマントルコ時代の女性が座っていた!と思ったら、正体は蝋人形であった。小部屋のひとつひとつになぜか必ず蝋人形が置いてあるのであった。


  


 「なんとなく気持ち悪いな〜・・・」
 とわたしはお化け屋敷を歩く人間のように周囲を警戒しながら見学しはじめた。おじさんたちの中にはニヤニヤ笑っているヒトもいる。しかし若い女性たちはみな一様に蒼ざめて緊張した表情をしているのであった。

 やがて一行はふたたび小さな部屋に入った。
 そこには浴槽がある。
 これがなんとスルタンとその妻たちだけが入られる文字通りの「トルコ風呂」なのであった。
 全盛期には宝石がちりばめられ、ちゃんとお湯が出てシャワーも使えたという。

 この浴槽で毎夜毎夜、酒池肉林の宴が繰り広げられたのであろう。オスマントルコのスルタンの栄光の日々がうかがえる。

 トルコ風呂の後ろのドアから出たら日光が差し込んできた。
 ようやく外に出られたのだ。
 おどろおどろしいハーレムから出て一安心していると、添乗員の森さんが声をあげた。

 「はーい!みなさん、ハーレムはどうでしたでしょうか。さてこれから一旦ホテルへ戻り、それからレストランへ向かって再出発します!」

 ブルーモスク・アヤソフィア・トプカピ宮殿・地下宮殿・ハーレムという五連発の見学が終わっても、まだトルコ旅行一日目は終わらない。

 わたしとツアー一行はとぼとぼ歩きながらバスに乗ってマスマラホテルへと帰路に着いた。




(写真は上から
・まるで「閨房」のようなハーレム内部。
・小部屋の中にある蝋人形。 )

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)