【中東紀行 12】地下宮殿のメドゥーサ 

 

 

 トプカピ宮殿地下に存在する地下宮殿。

 「007/ロシアより愛をこめて」を始め様々な映画の舞台として使用されたことで有名である。
 さらに近年では国際的な演劇やコンサートの舞台として使用され、「イスタンブールの地下宮殿」の知名度はますます上昇しているという。

 ひたひたと地下へ続く階段を降りてゆく、ツアー一行。らせん状の階段をかなり下ったと思ったらパァ!と視界が開けた。

 これは凄い。
 まるでSF小説に登場する「地底の湖」のようになみなみと水がたたえられ、その上に橋がかかっている。宮殿のあちこちでは幻想的な雰囲気を倍増されるように蝋燭の光が灯っている。


  


 橋の上をひたひたと歩く。かすかに橋が揺れる。
 わたしはこれは確かに不思議な世界だな、と実感していた。数々の映画の舞台として使用されているのも無理はない。

 本来は貯水池として建造されたものらしいが、これほど大きな貯水池をわざわざ地下に建造するという目的がよくわからない。そこが非常にミステリアスなのであった。

 やがてわたしを驚かすある物件が登場する。
 石造のメドゥーサの首である。しかし普通に飾られているのではない。逆さにされ、さらに柱の台にされている。


  


 これは尋常ではないな・・・
 とわたしは思った。
 なぜメドゥーサの首が地下宮殿の一番奥でこんな形で保存されているのか。

 わたしが推理するにこれは異教(ギリシア神話)の怪物・メドゥーサの祟りを恐れたものではないか、と思う。
 そのために地下に封印し、柱の下敷きにされたのだ。
 わざわざ逆さにされたのは異教の神話に対する「みせしめ」の意味があるのだろう。
 
 わたしはなんとなく寒気がした。
 「宗教」というものの恐ろしさの本質をかいまみたように感じられたからだ。
 その恐怖も論理的な怖さではない。非合理な本能的な怖さである。

 オキアイさんもツアーの一行も無言である。
 みなこのメドゥーサの首の恐ろしさに言葉を失ったからであろう。

 やがてツアーは出口に向かって歩き出す。
 わたしはメドゥーサに向かって軽く合掌するとオキアイさんの後を追って出口へ急いだ。

(左側は地下宮殿内部。
 右側は逆さにされたメドゥーサの首)
 

(黒猫館&黒猫館館長)