『業』

 

 

中川信夫著。雑草社発行。昭和56年2月28日初版発行。外装なし完本。定価1500円。全311p。

 「東海道四谷怪談」「地獄」「憲兵銃殺」などの怪奇・怪談映画でお馴染みの映画監督・中川信夫が自費出版した詩集が本書。

 そのように言われれば、中川信夫の怪奇映画ファンとしては怪奇趣味溢れる詩群を期待してしまうが、実際には中川信夫の生活実感に基づく世相を憂いた詩がほとんどである。怪奇趣味に期待する方には肩すかしを喰らうかもしれない。

 しかし平明な言葉で敗戦後の荒んだ世相を透徹した視線で射抜く詩群は極めて高レヴェルであり、中川信夫の詩人としての側面を如実に語ってくれる一冊である。中川信夫フリークの方々は一読に値する書物であると思われる。

 ごく稀に「四十九本のクギ」など中川信夫映画の一端をチラリと覗かせてくれる詩も収録されている。そのような詩は本書を手に取ってからのお楽しみということで内容についてここでは詳述しない。

 さて本書は詩歌専門店よりも、一般古書店の棚にひょいと並んでいたりする。それほど全く出ない本ではないので、気を長くすれば発掘できるであろう。

 古書価は安ければ8000円程度から買える。もちろん古書店主が面白がって高くつける場合もあるので、経済的な面では注意が必要な本であるといえる。

 

(黒猫館&黒猫館館長)