パリの夜は明るい。
夜、七時だというのに真っ青に晴れた空。
春の瑞々しい光に照らされた金色のジャンヌ・ダルク像前のレストランの中に陣取ったツアー一行。
まるで昼食のような明るい雰囲気の中でいよいよツアー最後の晩餐が始まる。
わたしがふと右前方を観ると吉永さんがひとりで座っている。恐らく「添乗員席」という席に座っているのだろう。わたしは勇気を振り絞って叫んだ。
「吉永さん!ここ空いてますよ!座りませんか!?」
吉永さんが答える。
「え!いいんですか!?」
横を見ると宮崎老夫婦も吉永さんに向かって手招きしている。
すると吉永さんは「失礼しまーす!」と挨拶して席を移動してきた。
なるほどモノは試しとはこういうことなのだな。わたしは深くうなずいた。
わたしは吉永さんと今回の旅行についてじっくり語りあいたい。
あくまでじっくりと。ミラノ・ヴェネチア・フィレンツェ・ローマ・モンサンミッシェル・そしてパリの美しいおもいでを。
やがて食前酒のワインが振舞われる。
わたしは白ワインを注文した。
吉永さんは赤ワイン。
他のメンバーもほとんど赤ワインを注文した。
やがて運ばれてきた白ワインを一杯やると、微妙にだが旅の疲れが癒されるような気がした。吉永さんや他のメンバーもワインの力で打ち解けたようだ。
一瞬の沈黙。
その次の瞬間、関西から来た若い女性ふたり組みが口火を切った。
「本当に楽しい卒業旅行になりました。みなさん、ありがとうございます。
わたしたちふたり、今年で大学卒業して看護師になります。」
なんと関西から来た若い女性ふたり組みは女子大学生だったのだ。卒業旅行ともなれば感慨深いものもあるだろう。
吉永さんがふたり組みに声をかけた。
「看護師のお仕事、頑張ってくださいねッ!」
やがて本日のメインデッシュであるエスカルゴが運ばれてくる。
しかし最後の晩餐はまだまだ序の口であった。
(黒猫館&黒猫館館長)