「ウグゥ・・・オォォ・・・」
遠くから男のうめき声が聞こえてくる。
わたしは半睡眠・半覚醒の狭間を漂いながら、うっすらと思った。
「なんだ?・・・このうめき声は・・・?」
「ォオオ・・・・ン・・・ォゥゥン・・・・」
隣室だ。
明らかに隣室から聞こえてくる。
声質からいえば白人男性の声だ。
なにかこうねっとりと甘えるような、それでいて苦しげな気妙な声だ。
「SMプレイでもやってるのか。お盛んなことで、全く・・・」程度に思いながらわたしは再び深い睡眠に入っていこうとしていた。
しかし声はますます激しさを増してゆく。
「オオォ・・・!オウ・・・オウ!!」
さすがに尋常ではないと思いわたしはうっすらと覚醒した。一体何をやっているんだろう?・・・時間は午前3時。もう草木も眠るうしみつ時も去っている。
そのうち声だけではなく「ドタッ!」という物音が聞こえてきた。椅子をもちあげて落とすような激しい音だ。
だんだんわたしは恐くなってきた。なにか犯罪のニオイがする。さすがマフィアの本拠地のあるイタリア・・・
「ドタン!ドタン!」
いくら物音がしようとわたしにはどうしようもできないもどかしさ!
これは絶対部屋から出てはいけない!そうすれば巻き込まれる心配もない!
わたしは再びベットに入りきつく眼をつぶった。
「ドタン!ドタッ・・・ボスッ・・・」
再び半睡眠・半覚醒の間を漂いだしたわたしの耳にパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。それから先のことは覚えていない。
この隣室の音はなんだったのか?・・結局、わからずしまいであった。
ただひとつ言えることは、「なにか異常な事態」が隣室で起こっていた。それだけである。
ローマの深い闇の夜ももうすぐ明ける。わたしはふるふると小刻みに震えながら再び眠りに落ちた。
(黒猫館&黒猫館館長)