(今回は緊急事態発生時の報告であるため写真はなし)
「ナカムーラ・・・・ナカムーラ・・・」
猫撫で声のような、それでいてその底にとてつもない悪意をありありと感じる不愉快な声を聞いてわたしはひょいと振り向いた。
そこには男が立っていた。
イタリア人?・・・
いやジプシーか?
それともイスラム系?・・・
背の低い、小男。
それでいて妙にケンカ慣れしていそうなふてぶてしさを感じさせる。
やつは悪意に充ちたニヤニヤ笑いをしながらポケットに手を入れた。
すると小男はいきなり、ミサンガ(南米産のひも状の手首に巻く飾り)を取り出すと、わたしの手に巻きつけようとしてきた。
瞬間的に手を引っ込めたわたしであるが、今度は手首を握ってむりやり巻きつけようとしてくる。
さすがのわたしも「これは尋常な事態ではない!恐らく押し売りだッ!!」と判断した。
小男の手を振り切ると、わたしはいきなりやつから逃亡!
しかしやつはなんと追ってきた!
「ナカムーラ!ナカムーラ!!」
全力ダッシュでスペイン広場の一番上まで到達すると、一番細い小路にわたしは壁を背にして息を潜めて、身を隠した。
一分・・・二分・・・三分・・・
緊迫した時間が過ぎてゆく。
時計をみて約10分後にわたしは小路から出た。
案の定、やつはもういない。
しかしその瞬間、わたしは「ハッ!」と息を呑んだ。
中里カップルたちはまだいるだろうか。
スペイン広場の階段を駆け下りるわたし!
しかし中里カップルたちの姿はどこにも見えない!
「取り残された・・・」
わたしはこのどこがどう繋がっているのかわからないローマの真ん中で一人ぼっちになってしまったのだ。
あの小憎らしい小男のせいで!!
しばらくわたしはショックのため動けなかった。
「ローマの休日ツアー」が一転して「無防備都市ツアー」に転落してしまった恐怖!
わたしはいったいどうやってホテルまで帰ったら良いのか。
わたしはしばらく放心状態でスペイン広場の真ん中に立ち尽くしていた。・・・
(黒猫館&黒猫館館長)