【西欧滞在日記 その23】無防備都市(参)
サン・ピエトロ寺院から出たツアー一行。
一行は再び陽気な陽気な運転手、マッシオさんのバスに乗り込み、一路バチカンからトレヴィの泉に向かった。
トレヴィの泉の次はスペイン広場である。
をお!「ローマの休日」の世界がわたしの眼前に展開する!
オードーリーよ!グレゴリー・ペックよ!!
と興奮しているとたちまちトレヴィの泉に到着した。しかし物凄い人だかりである。なにか起きそうな嫌な予感を胸に噛み締めながらわたしはバスから降りた。
添乗員の吉永さんが説明する。
「ハーィ!みなさん!ここがトレヴィの泉です!!泉に一回コインを投げると「もう一度ローマに来られる」、二回コインを投げると「結婚できる」、三回コインを投げると「離婚する」という伝説があります!コインを投げる時は後ろ向きになって投げるのがシキタリです!!それではみなさん、どうぞ!」
という吉永さんの説明通りにコインを投げ始めるツアー一行。
わたしは一回だけ投げた。二回は投げなかった。
なぜって?それはひ・み・つ。ウフフ・・・。
「ちゃぽん・・・」としょぼい音を立ててわたしの投げた50セント(約80円)をトレヴィの泉に沈んでゆく。投げる瞬間を宮崎老夫婦に写真を撮ってもらうと、わたしは用心のため吉永さんの後ろにくっついた。
「ハーィ!みなさん、コインは投げましたか!?ではスペイン広場に移動します!本日はそこから自由行動です!!」
スペイン広場といえば「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーンが石段に腰をかけてアイスクリームを食べた場所だ。わたしもぜひアイスクリームを食べるぞ!と意気込んでスペイン広場に向かうツアー一行。
スペイン広場にはあっけなく到着した。確かに石段がある。しかし人が多すぎてなにやら良くわからない。
吉永さんは添乗員の仕事があるというのでここで離脱。
取り残されたツアー一行は今日これからの戦略を練り始めた。
わたしもひとりでローマを歩くのはあまりに無防備、と判断して中里カップルに従うことにした。ごにょごにょと一問答の末、ツアー一行は「ローマの休日ツアー」と称して映画「ローマの休日」に登場した名所を徒歩で巡るという意見で合致した。そのためにまず「真実の口」に行こう!と結論がまとまった。
さてこの時わたしはツアー一行から「やや離れた場所」に立っていた。これがまずかった。本当にまずかった。ツアー一行にピタリと身を寄せているべきだったのだ。羊は羊の群れの中へ。そうしなければ狼から自分を守ることはできない!
ツアー一行がいよいよ動きだそうとしたその時、奇妙な声が聞こえた。まるで相手をおちょくるような、あるいは舐めたような風情のなれなれしさを感じる奇妙な声が。
「ナカムーラ!・・・ナカムーラ!・・・」
わたしはなにか?と思ってひょいと振り向いた。
(黒猫館&黒猫館館長)