「よおッ!」
いきなり元気の良い声が隣から聞こえた。
「な、なんだ!?」
と思って振り向くと中里カップルがニヤニヤしている。
中里カップル「これからどこ行くの?」
わたし「ええ、ん・・・まだ決まってませんです。はい・・・」
としどろもどろになっていると、ちょうど添乗員の吉永さんも気がついたようだ。こちらへ歩いてきた。
わたしは「ちぇ!」とココロの中でひそかに舌打ちした。
また吉永さんとツーショット写真を撮る機会を逸してしまったではないか。
トンだはずみでグループ交際?になってしまったわたしたち四人であるが、「まず昼食を食べよう」ということで合意した。
添乗員の吉永さんが美味い中華料理店を知っているという。わたしたちはフィレンツェの街中をぞろぞろ四人揃って歩き出した。
「中華飯店」。
やけにおおざっぱな名前であるが、中華料理屋には間違いない。
わたしたち四人が「中華飯店」に入るとなぜか「イラッシャイマセー!」と日本語で言葉が飛んできた。「中華飯店」の店員たちは顔を見ただけで中国人か日本人かその他の黄色人種か区別できるのであろうか。非常に不思議である。
やがてメニューが運ばれてくる。
この店はツアーコースに入っていないので、持ち前のお金で代金を払わなくてはならないのだ。
持ち前のユーロがあまり多くないわたしは「中華蕎麦」を注文した。5ユーロ(約800円)。中里カップルも吉永さんもギョーザやらシュウマイやらいかにも高そうなものを注文している。
しかしそれだけではなかった。「飲み物」も一緒に注文するのがこういう店の流儀なのだ。仕方がないのでわたしは「紹興酒(小)」を注文した。3ユーロ(約500円)。痛い・・・が仕方がない。
やがて食べ物がどんどん運ばれてくる。わたしの「中華蕎麦」も運ばれてきた。フィレンツェの「中華蕎麦」とはいかなるものか?と思ってすすってみると、これが意外と美味い!!わたしはフィレンツェの中華料理人に敬意を表しつつ、「中華蕎麦」をかきこんだ。
読者の諸君よ。
イタリアの食べ物は美味い。フランスと同じぐらいに美味い。これは間違いない。グルメな諸君がいたらまずイタリアへ行ってみると良い。すばらしい美味い食べ物が待っていることだろう。
吉永さんがわたしに気を使ってシューマイを分けてくれた。なんという親切なヒトよ!わたしは感動しながらシューマイを食べ、紹興酒で流し込んだ。
さて食事が終わって「中華飯店」から外に出た一行は、路地の横にある色とりどりのジェラテリア(アイスクリーム店)に立ち寄った。わたしは一番小さいコーンでアイスクリームを注文したが、これが異常なほどの量の多さ!おぉ!メタボへの案内人よ!
と気がつくと、周りでイタリア人も黒人も中国人もアイスクリームをはぐはぐしている。
そうなのだ。その時気がついたが、フィレンツェの中心部は一年365日ホコテン(歩行者天国)なのだ!なんという素晴らしい街!
さて吉永さんとは添乗員の仕事があるというので、ここでお別れ。
青空のしたで大盛りのアイスクリームを食べたわたしと中里カップルは、フィレンツェで最も素晴らしい景観が見られるというミケランジェロ広場に向かった。
折りしも時間は午後2時30分。
最も陽射しの強い時間だ。
小さな路地の陽光の中を日本人三人が浮かれてあるいてゆく。
わたしはこの時点でフィレンツェが気に入った。ミラノやヴェネチアよりもっと激しく。どうやら、わたしはフィレンツェという街に恋してしまったようだ。
四月のやわらかで明るい陽射しが花の都を暖かく包んでいた。
(黒猫館&黒猫館館長)