【西欧滞在日記 その14】花の聖母マリアの街
ヴェネチアでの興奮から一夜明けたあくる日。
わたしたちツアー一行はフィレンツェのウフィツィ美術館に入場するためアメリカ人やドイツ人の団体に混じって行列を作っていた。
旅行日程4日目。
そろそろ疲れが出てくる時期だ。
宮崎老夫婦がつらそうだ。中里カップルもゲッソリした顔をしている。元気一杯!の筈の関西からきた若い女性二人組も本日は押し黙っている。
しかし添乗員の吉永さんだけは元気一杯なのだった。まさに完璧超人である。
「ハーィ!!みなさん、これからウフィツィ美術館を見学します!!中は凄く混みます!!カバンに注意してください!以上!」
しかし行列は全くピクリとも動かない。ツアー一行はますます深い溜め息をついた。
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花の都・フィレンツェ。
この街は一見ファッションの都・ミラノや水の都・ヴェネチアに比べてカラーがはっきりしないイメージがある。
なにしろ「花の都」と言っても別に花が咲き乱れているだけではないのだ。
今回の旅行ではわたしはフィレンツェで一輪の花も観なかった。
しかしこの街は根強い「人気」がある。
イタリア通のヒトに言わせるとフィレンツェはイタリアで最も素晴らしい街であるそうだ。それどころかヨーロッパで一番美しい街に決め付けてしまうヒトもいる。
なぜフィレンツェがかくも人気があるのか。
わたしなりに答えるなら、その答は街の「質」であろうと思う。
フィレンツェははっきり言って小さな街だ。ローマやミラノには到底規模では及ばない。しかし量を補ってあまりある「質」がフィレンツェにはあるのだ。
歴史的背景を述べればヨーロッパのルネッサンス発祥の地はなにを隠そうこのフィレンツェである。またミケランジェロ、ダ・ヴィンチ、ボッチチェリ、ラファエロといった数多の天才たちを輩出した街である。経済面でも大富豪・メディチ家のお膝元としてルネッサンスから近世、近代にかけて大いに栄えた歴史を持つ。現在でもフィレンツェは革製品の産地として世界的に有名である。
またちょっと足を延ばせば一日で観光可能な気楽さがフィレンツェにはある。また「トスカーナの休日」という映画をご覧になった方も多いと思うが、あの映画のような親しみやすさがフィレンツェにはあるのだ。
それゆえに昔からよく言われるそうだ。
「フィレンツェは旅行で通り過ぎるよりも、じっくり滞在するほうが向いている。」
つまり「噛めば噛むほど味が出る」、それがフィレンツェの魅力なのである。
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ウフィツィ美術館に入る行列が少しずつ動き出した。私たちツアー一行もとぼとぼ最後尾あたりをついてゆく。
しかしウフィツィの内部で「あの名画」とめぐり合うことが出来るとは!
はっきり言ってウフィツィに入るまでフィレンツェをバカにしていたこの時のわたしにはそのことをまだ知る余地がなかった。
(黒猫館&黒猫館館長)