魎呼、その罪と罰

 

 

(↑魎呼↑)
(画像制作・彩華さん)

 

 

 

 遠くから低い叫び声が聞こえてくる。

 「助けて・・・助けてよ・・・魎呼・・・」

 那岐(なぎ)の弱弱しい声がだんだん小さくなってゆく。だけどアタシはその声を無視した。宇宙海賊として生き延びるには相棒を犠牲にするぐらいは仕方がない!

 サイレンの音が近くなる。GXP・・・なんてしつこい連中だ。だけどアタシは捕まらない。たとえ那岐を犠牲にしたとしても!

 「魎呼ーーーーツ!!」那岐が最後の叫びをあげた。・・・



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 ハッ!とアタシは目覚めた。またこの夢か。何度も何度も見た悪夢だ。この夢を見てしまった日は一日中気分が良くない。アタシは梁の横に置いてある日本酒のとっくりを手に取ってゴクリの呑み込んだ。まるで酒の力で悪夢を追い払うように。。。


 「あらあら、魎呼さん。朝っぱらからお酒ですか?」
 阿重霞(あえか)が嫌味たっぷりに声をかけてきた。ケッ!朝一番の挨拶がこれかよ。全くこの女は。

 「うるせーぜ!阿重霞!てめえも砂沙美を手伝って朝メシ作ったらどうだ!?」

 「洗濯も掃除もしない貴方(あなた)に言われたくありません!」
 阿重暇はプィ!とそっぽを向いて自分の部屋に入っていった。

 洗濯や掃除か。
 そういえばアタシは天地の家でなんの役にも立っちゃぃねぇな。・・・悪夢を見てしまった嫌悪感に加えて、自分のていたらくになんだか腹が立ってきた。もしかしたら天地はアタシをバカな女だと思ってるかもしれねーな。アタシは自己嫌悪に苛まれながらもう一度眠るためにゴロリと横になった。

 那岐。・・・おめえには本当に悪いことをした。アタシは1000年前の自分を悔いた。

 あの日、アタシは相棒の那岐を犠牲にしてGXPの追っ手から自分だけ逃げた。そして王立宇宙裁判所で那岐が受けた判決は宇宙海賊として様々な略奪や破壊活動を行った罪で1000年の重懲役刑。
 そして1000年の刑期を終えて、王立刑務所から出所した那岐はいつの間にかアタシをつけねらうようになっていた。裏切り者であるアタシを殺すために。

 



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 「あらあら魎呼ちゃん、まだオネムですかーー!?」

 いきなりの声にアタシはもう一度目覚めた。鷲羽(わしゅう)だ!しかしどうやって鷲羽はこの梁まで登って来たんだ!?不思議だ。梁の上でアタシは起き上がり、鷲羽と面を向かって座った。

 「なんだ、鷲羽かよ?・・・」
 「鷲羽ちゃんと呼んで!ぐふぐふ・・・」鷲羽がニヤニヤしている。まるでアタシの心をすべて読み通したように。

 「魎呼ちゃん、また那岐のことかい?」・・・お見通しだ。アタシはギクリとした。
 「な、、、なんでてめーがそんなこと、しってるんだよ!?鷲羽!」
 「図星。だって母親だもん。」鷲羽はなおもニヤニヤしている。まったくキモチ悪いぜ。いくら母親だろうともよ。

 「アバヨッ!鷲羽!」
 アタシは梁から飛び降り、天地家の外へ向かって飛び立った。



      ※              ※               ※



 10月の秋風が皮膚に心地よい。
 紅葉の紅(あか)が眼に沁みるように鮮やかだ。
 アタシは空を飛んでいるうちにいつの間にか天地がアタシを解放してくれた祠(ほこら)の上空まで来ていた。

 ここから始まったんだな。天地とアタシの物語は。
 アタシは上空から降下すると祠の中に入り、かって自分が閉じ込められていた棺(ひつぎ)の上に腰を降ろした。
 那岐がGXPに逮捕されたのは1000年前、つまりアタシが1017歳、那岐が517歳の時か。

 あの時代は那岐とつるんで好き放題やってたっけ。
 義理の姉妹の契りを結んだこともあったな。
 那岐は孤児だったからアタシを実の姉のように慕っていたな。・・・


 そんな那岐をアタシは残酷に裏切った。自分ひとりがまんまと助かるために。
 那岐がアタシら宇宙海賊の間では「地獄」と呼ばれる王立刑務所でどれだけの苦汁を舐めさせられたか、痛いほどに解る。
 
 昔はもし那岐がアタシに復讐に来たら素直に殺されてやるつもりだった。
 それがアタシの犯した罪に見合う罰だと思ってな。

 しかし今は違う。
 アタシには天地がいる。
 天地と出会ってアタシは本当に変わった。まるで凍りついた石のようだったアタシの心は天地や阿重霞や砂沙美や美星や清音たちと触れ合うたびに少しづつ解かされていった。
 だから。

 もしおまえがアタシを殺しにきたらアタシは全力でおまえと闘う。生き延びるためにな。宇宙海賊としての罪、そして那岐、おまえを裏切った罪、その二重の罪の重みに耐えてでもアタシは生き延びてみせる!

 残念だが那岐。
 そういうわけでアタシは今死ぬわけにはいかないんだよ。





          ※               ※              ※





 「みゃおーーーーーーーーーーーん!!」



 「な・・・なんだ。魎皇鬼じゃねえか。」

 なんだァ・・・アタシのニオイを嗅いでここまで探しにきたのか。

 よしよし。魎皇鬼。
 おまえは本当に可愛いやつだ。
 これからもずっと一緒に居ようぜ。



 さて、そろそろ朝メシの時間だな。
 行こうぜ。魎皇鬼。

 アタシタチが2000年以上の放浪の末に、やっと見つけ出した「家族」の元によ。

 サ!飛ぶぜ!魎皇鬼!
 しっかりつかまってろよ!!



 「みゃおーーーーーん!!」

 

 「今行くぜ!天地!そしてアタシの大事な仲間たち!」

 

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)

(2008年6月3日)