『ミノ あたしの雄牛』

  

高橋睦郎著。砂漠詩人集団発行。1959年11月10日限定200部発行(記番は最初からなし)。定価100円。横長本。綴じ部分は太い紐で綴じてある。外装なし完本。略フランス装。川崎洋編集。挿絵多数。 

 高橋睦郎は、1937年福岡県生まれ。ホモ・セクシャルを題材とする詩人として出発したが、その後徐徐に守備範囲を拡大。幻想風の詩、神話風の詩、サド・マゾヒズムに関わる詩など広範囲の詩を書く。最近は短歌・俳句も書く。著書は100冊を越えると思われる。一般的にも有名である。

 本書『ミノ あたしの雄牛』はそのような戦後を代表すると言っても過言ではない大詩人&高橋睦郎の第一詩集である。
 睦郎、若干21歳の輝かしい出発が本書である。
 高校の先輩ふたりが本書の経済面の負担をしてくれたという記述が「後書き」にあるので、本書はまるっきりの自費出版の本というわけではない。
 なお、本書の発行所である「砂漠詩人集団」とはどのようなグループであったのか、今となっては知る余地がないが詩誌「櫂」の詩人である川崎洋が本書の編集を担当しているので「櫂」と何らかの接点があるグループであると推測される。

 さて本書の内容面に言及すれば、睦郎が10代の少年期に書き溜めた極めてナイーヴな詩群が主体となっている。
 少年期特有の繊細さ、残酷さがありありと感じられる作風であり、まさに本書は10代だからこそ書けた「神からの恩寵」と言って良いほどの瑞々しい詩群である。
 現代詩にありがちな難解で気取った言い回しも皆無であり、少年らしい率直なモノローグのような詩群とも言っても良いだろう。
 もちろん睦郎の後年の大きなテーマとして現れるホモセクシャルの陰影がこの第一詩集からひっそりと姿を現していることは言うまでもない。

 本書の装釘面に言及しておくと、本書は糸で綴じてある本ではない。
 太い一本の紐で綴じ部分が締められている、という異色の造本である。
 その太い紐に擦れて、紐を綴じてある穴が大きくなっている本が多いらしい。
 ゆえに本書を乱暴に読むのは極めて危険であり、まさに「宝石を扱うような」手で本書に触らないとバラけてしまう可能性がある。
 そのように本書の扱いには十分な配慮が必要である。

 さて本書『ミノ あたしの雄牛』は戦後詩集では屈指の難関本であり、一時期全く古書市場に出ない時期が長く続いたが昨今は少しづつ市場に出てきているらしい。
 懸命なコレクターの諸君はこの絶好の好機の逃さず、ガッチリと本書を入手してほしい。

 また古書市場に出なくなることが予想される戦後詩集の中でも屈指の名詩集である。

 

 

 

『薔薇の木 にせの恋人たち』

  

 高橋睦郎著。現代詩工房発行。外装なし完本。初版1964年9月1日。跋文谷川俊太郎。写真沢渡朔。

 この『薔薇の木 にせの恋人たち』は第二詩集である。この本を第一詩集と思っている人もいるようだが、正確には第二詩集。第一詩集は『ミノ・あたしの雄牛』(砂漠詩人集団)。付け加えておくと『ミノ』は10年に一度出るか出ないかの超・稀こう本なので無理に探そうとしないほうが無難である。この第二詩集を持って第一詩集とする場合も多いからよほどの睦郎フリークでない限り『ミノ』にこだわるのは止めたほうが良いと思われる。

 さてこの第二詩集『薔薇の木 にせの恋人たち』は出やすい。といってもタイミングを逃すと意外と入手をてこずる可能性もあるだろう。古書価は昨今急騰したが、まだ安くつける店はあると思われるので根気で探せば安く発掘することも可能。睦郎初心者にも安心して薦められる内容・装釘ともにしっかりとした詩集であるといえよう。
  

 

(黒猫館&黒猫館館長)