『聖液詩集』

 

  

 

農上輝樹著。第二書房発行。初版昭和48年5月31日。カバ完本。口絵写真・矢頭保。

 武田肇や芦原修二などホモセクシャル詩人の詩集は数多いが、その中でも異彩を放っているのが本書である。本書の著者・農上輝樹はまえがきである「マニフェスト」で「ホモ誰しもが一度は経験するホモの苦悩を書きつづった、これらの歌疵(うたきず)だらけの歌は、性の苦悩を背負った男たちの『人間の証明』であり、それはまた『この時代の』証言でもある。」と宣言し、一般的な現代詩を「賢しらなレトリックの遊び、人工的な厚化粧の言語」と弾劾している。そのことの是非は別の問題として本書を読んでみれば、「アヌスのきつき熱さ」、「あまりのよさに泣いて果てる」、「われめから溢れ出す白い奔流を、じっと見ている」などなど文字通り「ホモの実感」に満ち溢れた「短詩」が多数収録されている。これらを単なるホモの独り言として片付けてしまうことも可能であろうが、わたしは昭和40年代のホモの心情の文字通り「貴重な証言」として本書を珍重したい。

 さて本書はサブカル系古書店では意外と出る本なので、入手はそれほど難しくはない。現代のホモの諸君にもぜひ読んでほしい「ナマのホモの声」がここにある。

 

(黒猫館&黒猫館館長)