肉塊

 

(作者・隷)

 

闇。

闇だけある。
なにも見えない。
なにも聞こえない。
なにも匂わない。

俺はついに自分が奴隷としての最高の栄光の中にいることを感じる。
俺は単なる肉塊になり果てたのだ。

あの深い深い眠りに落ちる寸前、
俺は御主人さまの下僕たちの手によって四肢を切断された。
眼球を抉られた。
鼻を削がれた。
耳の奥をバーナーで焼かれた。
舌を抜かれた。
痛みなどなにもなかった。
ただ自分が非人間である肉塊へと成り下がってゆくことだけを感じていた。

俺はいま安らぎのなかにいる。

もうなにも邪魔するものはない。

苦界から俺は完全に解放されたのだ。

そして御主人さまと俺の意思は一本の鞭によって伝達される。
鞭の痛みが御主人さまの愛なのだ。
鞭の数だけ御主人さまは俺を愛してくれるのだ。
鞭だけが御主人さまと俺を結ぶ一本の橋なのだ。

鞭だけでいい。
鞭だけで十分だ。

その痛みだけで俺は肉塊としての生をまっとうできる。

闇だ。
心地良い闇よ。
俺を包め。

闇だけがある。
なにも見えない。
聞こえない。
匂わない。
意識が薄くなる。

いま。

俺はすべてから解放された。