ブラックエンジェルズ黒き野獣たち完結篇

 

(影姫・作)

 

 

切人の娘である卑弥子とその部下、アマゾネスのメンバーをひとり残らず倒したブラックエンジェルズ。

松田らとはぐれた雪籐はひとり「切人」の住むらしい純日本家屋へ入ってゆく。
ひたひた・・・
雪籐の足音だけが廊下にひびく。
すると灯りのついた部屋がひとつだけある。

雪籐は身を横にすると即座にその部屋に侵入した。

「雪籐・・・待っていたぞ。」

蚊帳の中から変に甲高い声が聞こえる。

「これが『切人』の声なのか?」
疑いつつ無言で様子をうかがう雪籐。

「雪籐、残念ながらM計画はすでに発動した。
 大いなる革命は今こそ来る。
 愚かなる大衆どもを奴隷の身分へ堕とし、少数の貴族階級の完全独裁による階級序列を完成させる。
 われら竜牙会の目的はいまこそ達成される。」

雪籐が囁く。

「『切人』とやら。
 おまえの陰謀はいまここで断たれる。
 M計画発動の直前におまえは死ぬ。
 そしておまえの部下たちへも発動命令はくだされない。
 竜牙会の野望は達成されることなく終わる。」

「果たしてそうかな・・・
 出でよ!地獄の獄卒どもよ!!」

その瞬間部屋の壁の一方が崩れた。
そして現れた不気味なトンネル。
そのトンネルから湧き出してくるかっての暗殺者たち。

魔木、邪鬼、不動王、蛇皇院、酔鬼、斬血鬼、妖鬼、猿楽師、陽炎、卍、ガイ、シュラ、ソドム、
実に合計13人の暗殺者が今、復活したのだ。

切人の甲高い声が蚊帳の中から響く。
「こ、、、殺せ〜〜〜〜ッッツ!!」

その瞬間眼を瞑る雪籐。
そして呟く。

「わが心すでに空なり。」

その瞬間雪籐のスポークが一閃した。
13人の暗殺者たちの動きがピタリと止まった。

「ぎ・・・ぎぐえげげげげーーーーーーー!!!」

次々と倒れる暗殺者たち。
そして暗殺者たちの身体は霧のように蒸発してゆく。

雪籐が蚊帳に向かって呟く。
「切人。
 このようなこけおごしは俺には通用しない。
 そしておまえの命も今ここで終わる。」

「ききき・・・・きーーーーーッツ!!」
いやらしいほど甲高い笑い声が蚊帳の中からこだまする。

「雪籐、わたしをおまえは良く知っている筈だ。
 そして雪籐、おまえの過去もまたわたしは良く知っている。

 おまえの記憶、そうだ、鷹沢神父に育てられた孤児であるというおまえ自身の過去、
 それはおまえが作り出した妄想にすぎない。
 
 はっきり言おう。
 おまえの本当の名は『雪籐洋士』ではない・・・」

 その瞬間、和室の障子がガラン!と開いた。

「松田さん、ジュディ!」

 雪籐が叫ぶ暇もなく松田とジュディが入ってくる。
 松田はなにかを堪えているように見えた。

 「松田さん、麗羅と水鵬は?」

一瞬の間のあとに松田が声で呟いた。
「麗羅は行方不明だ。そして水鵬はあの悪魔のようなヘリ、『ブラック・サタン』と自爆した。」

絶句する雪籐。そしてすでに泣いているジュディ。
松田が怒りをこめて呟く。

「この蚊帳の中にいる奴が『切人』なのか?
 許せねえ。絶対に許せねえ。
 すべてをもてあそぶ外道が〜〜〜!!

 地獄へ堕ちろおおお!!!」

その瞬間、松田の手刀が蚊帳を切り裂いた!

松田「こ・・・これは!?」
雪籐「こいつが切人!?」
ジュディ「あ・・・赤ん坊!?」

蚊帳の中にいたのは赤ん坊であった。
そしてうさぎのような異様に大きな耳のついた帽子を被っている。

「ききき・・・きーーーーーーー!!
 雪籐、わたしに見覚えがあるだろう!?
 そうだ、『切人』、あの「悪魔のようなチビ」だよ・・・
 
 そして雪籐、おまえの本当の名は『浦見魔太郎』だッ!!

 魔太郎、おまえはあの日、われら魔族の攻撃から浦見家家族を守るため
 にいずこへ去った。そして放浪の生活。そして「雪籐洋士」という新しい名を
 手に入れると同時に整形手術で顔を変えた。そうだ、おまえは魔族ではなく
 普通の人間として生まれ変わろうとしていたのだ!。
 しかしそれも無駄だったようだな。おまえが中学時代に受けた『いじめ』、それ
 をおまえは忘れることができなかった。来る日も来る日も『いじめ』の悪夢に
 うなされる日々、そこでおまえは過去の楔を断ち切るために『社会における
 いじめっ子』を殺すことで自分の過去を修復しようとしたのだ!あのコミックス
 第一巻の寿司屋の若者に付きまとう悪徳刑事をおまえは殺した。そうだ、
 あの瞬間、『ブラック・エンジェルズ』は誕生したのだ。雪籐、いや魔太郎、
 これがおまえの正体だ!!そしておまえが持つ特殊な能力は魔族ゆえの
 もの、そして今、おまえは深層意識にまでこの記憶を追いやっている。
 『心を空にする』つまりわれら竜牙会の暗殺者たちと互角に戦うには
 そうするしかなかったのだ。しかし思いだせ!おまえの忌まわしい過去を!!
 『いじめられっ子の魔太郎』よ!!!

雪籐が呟く。
「いかにも。おれの本当の名は『浦見魔太郎』だ。しかしそんなことがどうした?
 切人?おまえがやろうとしている『M計画』、強者が弱者を支配する新世界。
 それこそ本当のいじめの天下だ。だから・・・」

 切人「だから、・・・どうした・・・(ニヤリ)・・・ふぐうッッツ」!!!

眼にも止まらぬ瞬間の出来事であった。雪籐のスポークが切人の顔面を貫いていた。

「死ね。そして堕ちろ。無間地獄へ・・・」
雪籐が呟く。
切人が血を吐いた。
「ぐええ、、、、ま、魔太郎・・・『M計画』は実行される・・・わたしが例え死んでいようとな。
 そして来るのだ。『いじめ』が法律として義務つけられ施行される新世界が。わたしは嘲う。おまえたちいじめられっ子
 の運命をな。これからもそして永久にいじめは世界で続いてゆく。
個人から個人へ。
集団から個人へ。国家から個人へ。そして神から個人へ。

これからも暴虐は続いてゆくのだ。
未来永劫にな。
そしてそれがおまえたち「人間」という種の永遠の定めなのだ。

ブラック・エンジェルズ、
 おまえたちがこれから何人いじめっ子を屠ろうとな。・・・ききき・・・・きーーーーーーーーー!!!」

 切人の最後の絶叫であった。
 土くれのようにぼろぼろに崩れはじめる切人。

松田が雪籐に話し掛ける。
「雪籐、終わったのか?」

「いや・・・松田さん、われわれの本当の戦いはこれから始まるのです。
 ブラック・エンジェルズ、それは永遠に虐げられた者の見方、
 その戦いが終わることなど永久にない。」

「そしてジュディ、、、僕が雪籐洋士でない別の人物だとしても君は一緒にきてくれるか?」

ジュディが雪籐に抱きついた。そして泣き出すジュディ。
「もちろん、もちろん、あなたは永遠に洋士、他の誰でもないわ。」

ゴゴゴ・・・
地盤が揺れ始める。

松田が呟いた。
「どうやら『M計画』を阻止することはできなかったようだな。
 雪籐、おまえはどうする?」

 「僕はジュディと行きます。・・・松田さん、あなたは?」

「俺はまず行方不明の麗羅を探す。それからのことは考えていない。
 では潮時だな。わかれようぜ・・・」

「松田さん、ご無事で・・・」
「おまえこそ・・・死ぬなよ・・・」

松田が和室から去ってゆく。
そして残された雪籐とジュディ。

「行こうか。」
「うん。」

ブラック・エンジェルズはこうして解散した。

しかしいつの世も弱者が泣く時、いじめが巻き起こる時、
ブラック・エンジェルズは必ず地上に舞い降りる。

そして君がブラック・エンジェルズの物語を記憶しているかぎり
いじめを行う外道の首にスポークが喰いこむことあろう。


(鬼が走る・・・邪が走る・・・修羅が走る・・・)

ドドーーーーーーーーーーーン!!(雷鳴)
    

 

 

(影姫&黒猫館&黒猫館館長)