愛しつつ戦うということ

 

 

くらやみ男爵の「魂の牢獄」から生還した光姫と影姫。

<影姫>

そこに立っているのは「優」、・・・優なのね!

<優>

影姫さま、約一年ぶりです。
お元気でしたでしょうか?

<影姫>

優、もう一度、もう一度、黒猫館に帰ってきてくださる?
貴方が居ないとわたしはどうも駄目なようです。
この一年、貴方が居ない生活に苦しみました。
喪失感・・・そこから発する鬱・・・
睡眠薬を何錠飲んでも眠られない夜・・・
貴方を想い続けて悶々とした日々が幾日も幾日も通過していきました。
それはすべて色彩の無いモノトーンの日々。
「帰ってきてくれる」・・・それだけでも言ってくださる?
それだけの言葉で・・・
わたしはわたしの霊力を引き出せます。

それだけでも言ってくだされば、わたしは持病の鬱を滅却してこの戦いに勝利することを誓います。 

 

 

<くらやみ男爵>

ふふ・・・
ふぉーーーーーーふぉふぉふぉーーーーーー・・・

いきなり帰ってきたと思ったら今度は痴話話か!

影姫よ。
なんという・・・
なんという恥知らずな淫乱女めが・・・ 

 

ふぐうッ!!

 

光のトンネルから無数に飛来する光球。
無数の光球はくらやみ男爵めがけて次々とぶち当たる。
その数は正に一万球以上。

無数の光球のアタックに「聖域」の天井付近まで吹き上げられるくらやみ男爵。
それでもまだまだ光球はトンネルから飛び出してくる。 

 

<くらやみ男爵の絶叫>

くぎ・・・クギエェェエーーーーー!!!

 

<黒猫館館長>

光姫よ。
これは、、、これは一体なにが起こっているのだ!?

<光姫>

この光球たちはくらやみ男爵の無間冥界呪法「葬儀」で首を刎ねられ「地獄」へ堕させた人たちの魂です。

わたしは「地獄」から脱出する際にすべての地獄の囚人たちにメッセージを送りました。
それは。

「自分を許しなさい。
そして自分はもうこれ以上苦しむ必要などないのだといことを覚りなさい。
この宇宙に「地獄」などという不条理な空間が存在していることに対し「否」と言うのです。
何人たりとも人間を地獄へ堕とす権利などありません。
それが例え「神」であっても。
さあ自分を許し、この「地獄」から脱出するのです。
そして戦いなさい。
人間の「負の感情」を弄ぶ最悪の悪鬼と。
そうしなければあなたがたは永遠に救われることはありません。

勇気を、、勇気を出すのです!」

と。

 

くらやみ男爵を天井まで吹き上げた無数の光球群はくらやみ男爵から離れた。
そして聖域の天井を破って地上めがけて猛然としたスピードで地下十二階を駆け上がってゆく。

 

<光姫>

帰ってゆくのだわ。
それぞれの愛するひとの待つ懐かしい「故郷」へと。 

 

一方、影姫と優。

 

<影姫>

さあ!言ってくださる!?
もう一度黒猫館に帰ってくると!!

<優>

影姫さま・・・
ボクはもちろん黒猫館に帰ります。
でも。

、、、ボクはもう影姫さま!あなたとおつき合いすることはできません!

<影姫>

・・・優!?

<優>

ボク、イェール大学で好きなひとができました!
だから影姫さま、あなたといままでのような関係を続けてゆくことは絶対にできません!! 

 

影姫はうつむいた。

 

<光姫>

オ・・・オネェ!! 

 

影姫はうつむいたまま動かない。

 

<光姫>

オネエ!!!

 

 

「大人たちは平気で
おでこを出して歩いているけれど
どうして恥ずかしく
ないのかしらって
少女のころは思っていたね
でもある日
きゅんと前髪をあげる日がくる
それは何かで
傷ついて
だけどやっぱり
前をむいて
生きなくちゃて
思った日」

(青木景子『プラチナの海』(サンリオ)「前髪」から引用。)

 

<影姫>

光姫、わたしは貴方の姉なのに実は貴方よりずっと子供だったようです。
わたしは優に「逃げ場」を求めていました。
それはわたしの精神があまりに空虚で孤独に耐えられなかった故。

しかしそれは結局、わたしと優の傷の舐めあいでしかなかったようです。
優はもう立派な大人です。
自分の手で自分の伴侶をこの残酷な世界から掴みとりました。
人間は愛する者とふたりであればどんな劣悪な環境でも生きてゆける。
優はこれからその伴侶と共にこの世界という名の戦場を駆け抜けていくことでしょう。

だからわたしも。
新たな伴侶を求めてこの世界へと出発します!
本当の「自立した大人の男女」という形の交わりを求めて。

優、貴方は貴方の人生をお往きなさい!
わたしはわたしの人生を往きます。

しかし優、貴方との楽しかった日々は一生胸に刻んでおくことでしょう。
永遠に・・・。

 

うつむいていた影姫がぐいと顔をあげる。
その表情はもはや以前の暗い陰影を帯びた表情ではなかった。

影姫の眼は燃えるような闘志と弾けるような生命力に満ちているように見えた。 

 

<光姫>

それでこそオネエです!!
さあ一緒に行きましょう!!
希望溢れる新しい世界へと!!

<影姫>

ええ!!
行くわよ!!
光姫!!

 

<ハムちゃま>

夢にゃ・・・
夢にゃ・・・
夢富〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!

イイんでちゅか!?
館長様!!
セーヤ(影姫のあだ名)のやつをこんにゃことで許して!?

<黒猫館館長>

いいだろう。
許してやる。
この戦いが終わるまではな。(ニヤリ) 

 

くらやみ男爵に挑んでゆく「ふたりの戦士」。
彼女らはついに自分の「本当の使命」に目覚めた。