馬となること
(ミストレス・影姫、特別寄稿)
「ひひ〜〜〜〜〜ん!!」
「ひひひ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
真っ青な草原の向こうからなにやら奇矯な男の声が聞こえてくる。
おお!見よ!
男の背には鞍(くら)が装着されている。
男の首には鋲付きの首輪が嵌められている。
男の肛門には房状の棒がさしこまれている。
男はミストレスに跨られ、
ぶざまな四本足で、
息も絶え絶えに、
こちらへ駆けてくるではないか!
男が考えていることは「馬」になりきることだ。
しかしそれにしても「馬になる」とはなんという傲慢なことか!
あの賢い瞳と立派なたてがみを持つ本物の馬、
あの高貴な動物に自ら変身することを試みるとは!
卑屈なマゾヒストの分際でこれは少々思い上がりもいいところだ。
しかしマゾヒストはそんなことは百も承知なのだ。
自分が「馬」になりきれないなどということなど。
本物の馬が高貴であればあるほどマゾヒストの滑稽さは倍増される。
しかし実はその部分こそがマゾヒストの陶酔の要なのだ。
本物の馬の無様な真似をする自分。
あたふたと滑稽に四本足で這いずり回る自分。
そうなのだ。
マゾヒストは馬になろうとし、
またなれもしない自分を嘲うのだ。
ミストレスの鞭がマゾヒストの背に食い込む。
血糊が汗と混じってしたたり落ちる。
人々の好奇の視線が一斉にマゾヒストに注がれる。
こうしてマゾヒストは狂おしいほどの陶酔の極みに、
ついに輪廻の後に自分が本物の馬となる幻を見る。
それはなんという甘美な幻影であろうか!
自分が本物の馬となってミストレスを乗せて駆けてゆくのだ!
マゾヒストは涙を流す。
勃起したペニスからぴちゃぴちゃと飛び散るカウパー氏腺液!
鞭が背に食い込む。
血が噴き出す!
マゾヒストは哭く。
「ひひ〜〜〜〜〜ん!!」
「ひひひひ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
「ひひひひひひひ〜〜〜〜〜ん!!」