記憶〜光姫と影姫の秘密〜
「歴史とは、人類の巨大な恨みに他ならぬ」(小林秀雄)
<オルフェウス>(注1)はただじっとみつめていた
始まりのさらに以前からであった
あるとき<始まり>があった
なぜ始まったのか?
そんなことも<オルフェウス>には興味がなかった
<イエホヴァ>という神が始まりの中心にいた
そのまわりで<オリンポスの神々>が生まれた
毎日は饗宴であった
<オリンポスの神々>は楽しむために存在していた
しかしある時、<オリンポスの神々>はいなくなった
宇宙は再び静かになった
イエホヴァは退屈し始めた
イエホヴァは<星>というものをたくさん作った
その<星>のひとつに<動物>を作った。
<動物>は進化して<人間>となった
<人間>に対してイエホヴァは仮借なく振舞った
最初の人間であるアダムとイヴに<死>を教えた
アダムとイヴの最初の子供であるカインに<殺人>を教えた
そしてイエホヴァはもう<人間>に飽きた
イエホヴァの沈黙が始まった
そして訪れる近代の暗黒
1155年 ジンギスカンによる世界蹂躙始まる。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1337年 英仏百年戦争。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1532年 ピサロによるインカ帝国の大虐殺。ひとつの文明が消滅する。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1572年 サン=バルテルミの虐殺。一夜にして10万人が惨殺さる。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1618年 30年戦争勃発。<人間>はイエホヴァのために殺し合いを続けた。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1793年 テルミドール九日。フランス革命崩壊。ギロチンの嵐。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1920年 第一次世界大戦勃発。死者2500万人以上。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1937年 南京大虐殺。死者30万人以上。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1939年 第二次世界大戦勃発。最終的な死者は全地球上で5000万人以上。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはみつめていた。
1940年 アウシュビッツの虐殺始まる。死者400万人以上。イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスはまばたいた。
この時ひとりの<人間>の<哲学者>が小声で叫んだ。
「アウシュビッツの後では人間は生きることができない」
イエホヴァは沈黙していた。オルフェウスは再びまばたいた。
一滴の透明な涙がオルフェウスの眼からしたたった。
涙は一筋の光となりひとりの<人間>の<女>を撃った。
<女>は気を失った。
しかし一時間後に目覚めた時<女>は自分が双子の女児を身ごもったことをすでに知っていた。
やがて生まれてくる双子の女児がその<使命>を知るまではまだ当分の時間があった。