『虚栄の市』

 

 


中原弓彦(小林信彦)著。河出書房発行。初版昭和39年1月25日。帯付完本。角背並製。軽装版。装丁・挿絵小林泰彦。

 「オヨヨ大統領」シリーズなどで一躍現代の人気作家になってしまった小林信彦の第一小説集。この時期はまだ「中原弓彦」というペンネームを使っており中原名義の『虚栄の市』『汚れた土地』『冬の神話』は「初期三部作」と呼ばれている。尚、角川文庫絶版で絶大な人気を誇る『監禁』(金子国義装丁・装画)の元版は『ある晴れた午後に』(新潮社)であり小林信彦名義著作の第一作にあたる。

 さて本書『虚栄の市』は新進気鋭の若手作家・有賀俊介がマスコミ界に巣食う怪物たち、ゴシップ屋・アル中・若手作家をいびるのが趣味のサディストの編集長などを相手にひとあばれするというのが物語りの本筋である。当然のごとくこれはエンターティーメントを目指して書かれた小説ではなく、若き日の小林信彦の当時のマスコミ界の低俗さへ怒りが書かせた風刺小説として読まれるべきものである。本書の題名、「虚栄の市」とはそんなマスコミ界に対する風刺的蔑称であるのだろう。

 さて本書は中原弓彦名義の本でも出ないほうに属する。しかしやはり小林信彦の第一小説なのだからコレクター必携の書であることはいうまでもない。

 最後に一言。書影は帯が付いておりません。筆者がこの本を均一台で拾ったのでこれで勘弁してください。コレクターの皆様、まことに申し訳ありません。<(..)>