『高田悦志メモリアル集』

 

製作山海塾。深夜叢書発行。初版1986年2月7日。未綴り紙片25枚ちつ入完本。大判。 

 本書は「高田悦志」という31歳で夭折した一人の若者に捧げられた追悼文集である。

 高田悦志は1954年群馬県にて生、上京後1975年山海塾に入団、80年代前半を舞踏集団山海塾の主要メンバーとして活躍、そして1985年9月10日アメリア・シアトル市の公演中に高所より落下、死亡した。享年31歳。

 夭折者に捧げられる追悼本はどの本もあまりに痛ましい。岸上大作『意思表示』(白玉書房)や歌人・中条ふみ子に捧げられた若月彰『乳房を永遠なれ』(第二書房)や高野悦子『二十歳の原点』(新潮社)などの系譜に連なる書としてわたしは本書を位置付けたい。これらの書に共通するものは押さえても押さえきれないほどの夭折者の慙愧の念が篭っている点である。

 さて本書は白石かずこによる序詩、公演の写真、高田悦志の絵・日記・公演メモ・詩等が収録されている。生前の高野悦志の誠実な人柄が滲み出ている、そんな本である。

 さて古書の世界ではこのような本は「饅頭本」と呼ばれ煙たがられるのが常だが本書は例外的にしっかりした古書価をつける店が多い。とはいっても根気良く探せば安く入手することも可能。

 最後に本書掲載の白石かずこによる序詩を引用する。これがまた素晴らしい出来栄えの詩でこの詩の掲載がなかったら本書は恐らく埋もれていただろう。

 「鎮魂 空へ」 白石かずこ

 「空から まっさかさまに墜ちて
  天に昇る死など わたしは考えたことがない
  彼は鳥ではなく 人間だったし

  神ではなく 生命だった
  生命であること その存在の美しさを
  一度も あやまち犯すことなく

  シンシアに勤勉すぎるほど
  生命の歓喜 上昇に向かって 生きたのに

  空から まっさかさまに
  運命が降ってきて 彼に当たった
  わたしは神に左手を出せという
  左手も 右手も 神に手があるなら
  なぜ使わなかったかと

  空から まっさかさまに 空がはいる
  心臓の井戸の熱い声にむかって

  若すぎる者よ 若すぎるのに
  空へと墜ちていった
  昇る魂よ」   

(黒猫館&黒猫館館長)