『神サマの夜』
真下章(ましもあきら)著。紙鳶社(群馬)発行。初版1987年1月15日発行。カバ完本(再販は帯付き)。角背上製。
本書は1988年度H氏賞受賞詩集。
さて本書はH氏賞本の中でも屈指の異色詩集である。なにしろ本詩集のテーマは「豚の養豚」というのだから驚く。本詩集の主人公は豚の養豚業者であり、日常的に豚の去勢や屠殺に関わっている人物のようである。そんな主人公が豚を観察し豚の惨めさや無様さを揶揄しているのが前半「腐刑」の章である。そんな主人公が後半「神サマ」の章になると突然、豚に対しての畏敬の念を抱き始め、豚を「神サマ」と呼んで崇め始める。これを「自然への回帰のドラマ」とステレオタイプに解釈することも可能だろうが、わたしは本詩集にもっと深い、ある種のブラック・ユーモアを伴った諧謔の風味を感じる。この独特の感触は実際読んでみて、読者のひとりひとりに感じてもらうしかないだろう。正に本書は不可解さと謎を秘めた突然変異的な異色詩集なのである。
さて本書は1980年以後の詩集では『さるやんまだ』と並んで全くといっていいほどでない詩集の一冊である。再販はたまにみるが初版は本当に少ない。その証拠に1987年と古書の世界では「新しい」部類の本にもかかわらずもう古書価は一万円を越えているらしいのだ。動物がテーマになった詩集は高くなるという古書界のジンクス(例・『動物哀歌』など)があるが正にそのジンクスどおり将来古書価が急騰する可能性は大である。本書が「第二の『動物哀歌』」となるまえに心ある詩書コレクターはしっかりと本書を確保しておくことが肝要であろう。