『天唇(てんしん)』
村木道彦著。ぐみ叢書刊。初版昭和49年10月15日。箱完本。定価2000円。装丁建石修志。
1960年代〜70年代の若者の歌集といえば「学生運動」がテーマになっている歌集が多いが本書には「学生運動」の「が」の字も出てこない。そういった「ドラマチック」な要素を排した場所で本歌集は成立している。
それでは本書は「退屈」なのか?というと全くそんなことはない。ナイーブな青年の日常の出来事が淡々と綴られているが、これが十分すぎるほど面白い。これはひらがなの使い方のうまさや今までにない個性的な文体のおかげであろう。「ドラマチック」な題材を扱えば面白くなるというほど短歌は単純なものではない。
しかし村木道彦はその後自己模倣の謗りを受け筆を絶つ。今後実作にもどるかどうかは判然としていない。
ところで本書は「ぐみ叢書」という自費出版で発行された。そのためかどうか最近は市場で見ることも全くなくなってしまった。どうしても欲しい人はこころを鬼にしてさがすしかないだろう。