『獄中性愛記録』

 

  

 

酒井潔訳。風俗資料研究会刊。初版昭和6年8月10日発行。定価1円。カバ完本。 

 題名だけで読みたくなる本というものがある。例えば「獄中記録」。あるいは「性愛記録」。これだけで読みたくなるのに『獄中性愛記録』とはまたなんとも読者の好奇心のツボを押さえた本ではないか?

 本書はマリイズ・ショワジ女史という謎の(?)女性作家によるルポルタージュという形式を一応とっている。しかしあまりに大袈裟な記述などもあり、これが全部本当のことなのかは疑わしい。もしかしたら訳者の酒井潔による脚色がかなり混じっているのかもしれない。

 内容は「女子刑務所の実態」、「獄中での同性愛」、「獄中結婚」、など学術的な記述どころか、好色な読者の好奇心をくすぐるたぐいのものばかり。最も、戦前の猟奇実話もののなかではおとなしい部類のものではあるが。

 さて賢明な読者ならとっくにご存知の事実とは思うが、酒井潔とはあの澁澤龍彦が「師」と仰ぐほどの隠れた大物作家なのである。事実、澁澤の代表作『黒魔術の手帖』は酒井潔の『降霊魔術』の内容が元ネタになっている。そういう意味でわが国の異端文化研究の先鞭をつけたのがこの酒井潔といえよう。