『右左口(うばぐち)』
山崎方代著。短歌新聞社刊。初版昭和48年12月25日。カバ帯完本。定価1500円。帯文玉城徹。
もはや現代短歌界の神話的人物と化した感もある「伝説の放浪歌人」、山崎方代の第二歌集。といっても第一歌集『方代』は「雑誌の付録」だったそうだからこの『右左口』を持って第一歌集とする場合もある。注意点としては昭和49年発行の本を初版と間違って売っている店がある。本書は2刷以降「・」を発行日の後に付けている。この「・」があったらそっと棚に戻すのが賢明である。
さて方代の歌風は「素朴」「朴訥」と評されることが多いが、それが通俗の一歩手前のぎりぎりで留まることによって返って通俗を超えるという逆説的構造を有している。要するに唯の「生活短歌」ではないのだ。方代は意外としたたかな奴なのである。
さて『右左口』の時代はまだ方代が乞食同然の放浪生活をしていた時代である。これが第三歌集『こおろぎ』の時代になってくると鎌倉に住居を構え悠々自適の生活を送ることとなる。そのせいかどうかしらないが第三歌集以降には『右左口』のころのような鋭さは感じられない。
さて写真右は方代の署名。これだけでも貴重だが、これに歌が入るととんでもない古書価になる。
尚、「右左口」とは方代の故郷の村のこと。最後に一首引く。「ふるさとの右左口村は骨壷の底に揺られてわが帰る村」。