『小さな柩〜子捨て、子殺しの系譜〜』

 

 

 

南川泰三著。ブロンズ社発行。初版昭和48年12月10日発行。カバ帯完本。定価860円。装丁・挿画片山健。 

 数ある片山健装丁本のなかでも最も人気が高く、かつもっとも入手困難なのが本書。一説では回収破棄されたから出ないという説もある。

 さて本書の著者「南川泰三」という人物についてまったく詳細は不明。演劇関係に近い人物という噂がある程度。そういわれてみれば確かに状況劇場張りのパセティックな文章を書くひとだという印象がある。

 さて本書のテーマは「子捨て、子殺し」。「死児を抱いて唄う女」、「ロッカーは赤子たちの納骨堂」、「賽の河原幻想」、「児童暗黒史年表」など気の滅入りそうな章がずらりと並ぶ。これにあの片山健の挿絵。ツボにはまりすぎているではないか?これもまた傑作本の最も重要な要素である「内容と装丁の一致」が見事に実現した例といえよう。

 なお、この時期の片山健はあの名画集『美しい日々』(幻燈社)の時代からかなりずれ込んだ『迷子の独楽』(北宋社)の時期にいる。『迷子の独楽』のグロテスク世界が本書でも存分に繰り広げられている。

 本書は正に高度成長期が生んだ代表的奇書といえよう。