『日蝕の鷹、月蝕の蛇』

 

 

  

倉阪鬼一郎著。幻想文学出版局刊。初版1989年4月5日発行。カバ完本。定価1000円。 

 「余技」という種類の本がある。有名所では『平井呈一句集』や渡辺啓助『そうかもしれない、あるいは』などの本が有名作家の余技である。この『日蝕の鷹、月蝕の蛇』も怪奇作家・倉阪鬼一郎氏の「余技」と思われる人も多いかもしれない。しかし倉阪氏は20代の頃、前川左美雄に傾倒するところがあったらしく、その作歌への情熱は相当なものだったと思われる。事実本書収録の短歌は分量は少ないものの昨今の自称「前衛歌人」の短歌に比べて遥かに面白い。技巧的な鋭さは感じられないが、「怪奇」的なモチーフの処理という点で倉阪氏の短歌は「うまい」といえよう。

 この後、倉阪氏は俳句へ転進、短歌は捨て去ったかにみえる。しかし倉阪短歌のファンとしてはもう一度倉阪氏の短歌を読んでみたいというのが真情である。