『野口竜の世界』

 

 

 

野口竜著。朝日ソノラマ刊。初版昭和60年7月10日発行。カバ帯完本。定価2000円 

 『電子戦隊デンジマン』の怪人「ベーダー一族」はあらゆる意味で革新的であり、従来の怪獣・怪人観を根底から覆したといえる。この「ベーダー一族」のデザインを担当したのが当時新進気鋭のイラストレイター・野口竜であった。
 野口竜の怪人デザインの特徴はふたつある。ひとつは「左右非対称」であり、もうひとつは「モチーフがない」ということである。これは従来型の怪人が左右対称であり、なんらかの動植物をモチーフにしているという「常識」を粉砕するものであった。
 
野口デザインの怪人はその形態からみるものに不安を与える。それは「いままで自分が頼ってきた『常識』によってとらえることができない」という感覚から生まれる不安なのである。その意味で野口デザインの怪人は正に「異次元の生物」の形象化であったといえよう。

 野口竜はその後、「宇宙刑事シリーズ」の怪人を担当する。ここでも「二段変形」(宇宙刑事シャリバン)、「東南アジア的」(宇宙刑事シャイダー)などの新趣向を凝らして視聴者を楽しませてくれた。

 このようにして1980年代の特撮シーンをリードした野口竜のほぼ全仕事を網羅したのが本書である。